第19話 事件の顛末
「こいつは被害者だ!退け!」
遙斗の声が聞こえた。
すぐ地面を蹴ったつもりだった。
それでも間に合わず、私は動けなくなってしまった。
遙斗が私を守ってくれているのを感じた。
だけど、麻友ってヤツにやられて動けなくされた上に吸血までされた。
私を襲ったのは絶望ではなく焦燥だった。
私は何をしてるんだ!
さっきやっと、やっとあんなに近くに感じれたのに!
味方でいてくれるって約束してくれたのに!
私は…!
顔を蹴られ、今度は髪を持たれる。
気付けば私は数人の吸血鬼に囲まれていた。
金縛りは解除されているはずなのに全く身体を動かせない。
服が、引き裂かれた。
遙斗とデートだと思って一生懸命選んだ服を。
これから思い出になるであろう1日を引き裂かれたような──。
「いやぁぁぁぁあ!やめて!!」
いや、嫌だ。
こんなところでこんな…。
こんなの嫌だ…。
助けて…助けて…助けて…。
「た…すけて…っ遙斗…ぉ……」
つい、助けを求めてしまった。
この言葉が何を引き起こすのかも知らずに。
麻友の卑しい笑みが見える。
その笑みが…むしろ身体が、一瞬にして消えた。
直後に何かが物凄い勢いでコンテナに当たる音がした。
「コロス………コロス…」
「遙斗…?」
ちょうど麻友がいたところに遙斗みたいな顔が見える。
私の目と遙斗の目が合う。
見開かれた眼球に小さい瞳が私を恐怖させた。
思わず瞬きをした時、目の前の男が吹っ飛んだ。
それが遙斗の拳によるものだと気づく頃には他の男達も拳で、肘で、脚で、吹っ飛ばされていた。
嫌な音がする。
何かが潰れる音、何かが折れる音。
コンテナに打ちつけられもっと酷い状態になった人もいた。
「くっ…何故、何故操れない…!」
「コロス………」
何とか起きあがろうとした麻友をそのまま上から踏みつける。
それだけでも十分なダメージになったはずなのだ。
だけど、遙斗はやめなかった。
何度も、何度も何度も何度も何度も足を振り下ろし続けた。
「遙斗!もうやめて!!本当に死んじゃうよ!」
遙斗はゆっくりと顔を上げ、不思議そうに私を見た。
そして…笑った。
顔の数センチ横を突風が吹き抜ける。
目だけを動かしてすぐ横を見る。
コンテナにめり込んだ腕と愉しそうな笑みを浮かべる遙斗が私を見ていた。
これは、遙斗じゃない───!!
そう思った瞬間、私の覚悟は何をすべきかを私自身に教えてくれた。
恐らく、私はこのままじゃ殺される。
でも遙斗はきっと苦しんでる。
なら私は命をかけてでも遙斗を助ける。
だって、私は…私は…。
「ウオオオオオオオアァァァア!!」
遙斗の拳は必ず私に向かってくる。
私の念力でも範囲が限られていれば多少の壁になるはずだ。
ガッ─。
念力で作った壁が壊される一瞬を突いて、私は思い切り遙斗を抱き締めた。
「遙斗!!私の声を聞いて!遙斗!」
「コロス……コロス…!」
「玲奈ちゃん!どうしたの!」
紺青さん…!
遙斗や私の声を聞いて様子を見にきてくれたんだ。
「遙斗がっ!…おか、しいんです!きゃぁっ!」
一瞬注意がそれた隙に振り払われてしまった。
私と紺青さんを見て様子をうかがっている。
どうにかしないと──。
「玲奈ちゃん、夜来くんの注意を一瞬引ける?」
「…やってみます」
今、私が考えつく限りで遙斗自身に響きそうなことは一つしかない。
私の思いを全て込めて…やってみよう。
遙斗の姿が一瞬にして眼前に迫る。
すでに肘は引かれ、腕が猛スピードで突き出される。
スレスレで身体をそらし拳をかわす。
その隙に遙斗の近くのコンテナを念力で思い切り投げつけた。
もちろん遙斗はコンテナをしのぐしかない。
さすがにどんな超人的肉体でも拳を振り抜く途中でステップできるわけがない。
遙斗がコンテナを蹴って軌道を変えた所に走り込み、再び私は遙斗を抱き締めた。
今度は私の唇を彼の唇に押し付けて。
「はる…と……」
「……………」
一瞬、遙斗の全ての行動が止まる。
紺青さんが遙斗の頭を掴んだ。
…完全に静かになる。
私は紺青さんが何をしてるのかは全く分からなかった。
だけど、遙斗を助けられるのだと信じて声をかけ続けた。
目を覚まして、と。
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