第12話 吸血鬼喰い
「吸血鬼を…喰う…?」
「まあ、もしかしたら比喩的な表現かもしれない。何せ個体数が異常に少ないから何とも言えないんだ」
…玲奈は俺を紅姫だと思って、俺が吸血鬼を食べたんじゃないかって避けていたのか。
納得できる。友達が同族殺しと分かって接し方が変わらないヤツなんていない。
「とりあえず、複数の能力を使ったというのは伏せておいた方がいい。もしかしたら他の特別な能力、という可能性もある。むしろその方が高いからな」
「分かりました…。じゃあ俺の能力は“筋力強化”ってことにしておきます」
紫楓先生に礼を言って病院を出る。
何だかんだで玲奈と同じくらいお世話になっている人だ。
そのうちお礼でもしたいな…。
「あ、夜来くんおかえり!」
「ただいま」
西深さんの笑顔に迎えられると何故だかホッとする。
リビングには玲奈と千賀さんが座っていた。
玲奈は俺と目を合わせてくれない。
「夜来くん、どうだった?」
「異常無し、能力は“筋力強化”だってさ」
「脚力だけじゃ無かったんだ!なかなか強い能力で良かったね」
筋力強化、というのは脚力や腕力の上位能力で自在に強化できるから強い!ってことらしい。
相変わらず玲奈は口を開かない。
自然と会話が消えていく。
「ごちそうさま」
食べ終えた玲奈がガタッと席を立つ。
表情1つ変えずに自室に戻っていく姿を目で追っていく。
ここ数日いつもそんな感じだ。
ため息をつきながら前を向くと皆の視線が俺に集まっていた。
「何か、怒らせることしたんでしょぉ…」
「玲奈さんがあんなに不機嫌なの久しぶりです」
「あー、遙斗が相手してあげないから拗ねちゃったんだよきっと!」
…言いたい放題だな。
でも、本当のことを言うわけにはいかない。
もし本当に俺がそうならここの皆にも迷惑をかけることになる。
「まあ、玲奈のことは俺がどうにかするよ…」
曖昧に笑って俺も席を立つ。
真面目な顔したからか皆が心配そうに黙ってしまった。
せめて雰囲気だけでも明るくしないと──。
「今の事件が終わったら皆で出かけよう!きっとリフレッシュもできるし、さ!」
そう言って俺はムリに笑った。
一週間が経ち、手がかりも消えかかってきていた。
捜査の行き詰まりを感じつつパトロールをするというのは辛いものがある。
そして、玲奈もずっと塞ぎ込んだままだった。
「ごちそうさま」
最近は早々に朝食を食べ終え部屋に戻ってしまう。
こんな日々が続いていてはいけない。
それに…
「ジー」
皆からの『何とかしてくれ』って目線が痛すぎる…。
…よし。
ここは行動をとらなくては。
コンコン。
「玲奈、いるか?」
玲奈の個室のドアを軽くノックする。
返事は無い。
…寝てるのか?
コンコン!
「玲奈ー?」
強めにノックして呼びかけると、ノックの衝撃でドアが少し開いた。
鍵は開けっ放しのようだ。
とりあえず寝てるかどうかだけ確認しよう。
ただの屍のようだなんて事態にはなりたくない。
ゆっくりドアを開ける。
そして、気づいた。
…俺、女の子の部屋入るの初めてだ…。
急に緊張してきた。
いや、やましい気持ちなんてないんだから堂々としていればいいんだ。
「おじゃまします…」
玲奈の部屋はキレイだった。
無駄な物がほとんど無い。
白を基調としたインテリアで一瞬何もないような錯覚にとらわれる。
そして、机にはついたままのパソコンと突っ伏して寝ている玲奈の姿があった。
「ったく…何してんだか…」
部屋着の玲奈を抱きかかえてベッドに移動させようとした時、ふとパソコンの画面を見た。
…これは……
「ごめん、遙斗……」
俺の耳元にある玲奈の唇から声が漏れた。
謝られた。
…ちゃんと玲奈と話さなくてはいけない。
俺は逃げてちゃだめだ。
玲奈をベッドに寝かせ、俺は自室に戻った。
翌日。
登校中にさり気なく玲奈に話しかけた。
「なあ、玲奈」
「…なに」
これは…違う。
怒ってるんじゃない。機嫌が悪いわけでもない。
思い詰めている。
確かじゃないがそんな気がした。
「明日俺と出かけてくれないか」
「……仕事は」
「もちろん休む」
「……他に誰がいるの」
「いや、2人で行こう」
「……何しに」
「んー…買い物、かな」
低いテンションの質問を次々にさばく。
言葉が切れたところで玲奈に精一杯笑いかける。
自然に笑えてる、かな…?
…不意に、玲奈がハッとした。
「………!!ふ、2人で買い物!?」
みるみる赤くなっていく玲奈。
急に俯いて指をいじり始めた。
ここは最後に一押ししてみよう。
「そうだけど…ダメか?」
「いっ、いや…いいよ。行こ」
そのまま早歩きで校舎の中に入ってしまった。
結局教室で会うことになるのだが…とりあえずOKはもらえた。
あとは明日を楽しみに待とう…。
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