第11話 紅姫








「なるほど、それで現場を目撃したため踏み込んだと」


 俺と玲奈と千賀さんは例の事件の詳細を宇佐井チーフに報告に来ていた。

 独断で踏み込んだ事を咎められている最中だ。

 事情は仕方ないにしても単独行動はするな、という主旨の話を溜め息混じりに聞かされた。


「お前の能力が脚力強化じゃなかったら今頃逃げられて大目玉だったんだぞ?」


 ……?

 脚力強化…?

 チーフには報告してなかったが俺の能力は幻覚能力だったはずだ。

 俺が玲奈を見ると玲奈もいぶかしげな顔で俺を見ていた。


「脚力強化…ですか」


「そりゃあ、そうだろう。吸血鬼同士のスピード勝負であそこまで圧倒的なのは見たことが無い。車でも追いつけなかったしな」


 確かに、異常なまでに足が速くなったのは感じた。

 しかし俺に能力は2つ存在するなどとは…。


「ま、とりあえず上への報告にはこんぐらいでいいだろう。お疲れ」


 チーフのデスクから離れた俺はすぐに玲奈の元に駆け寄った。

 俺はまだ吸血鬼についてよく分かっていない。

 能力を2つ持つことは可能なのか?


「玲奈、能力って……玲奈?」


「…紅………姫……」


 玲奈は俯いてぶつぶつと喋っていて俺の言葉が届いていないようだった。


「おい、玲奈…」


「!!」


 肩をぽん、と叩くと玲奈はバッと身を引いて俺を見た。

 その目に、表情に、浮かんでいたのは恐怖だった。

 俺を見て、恐怖しているのか…?

 ………。








「へえ、2つの能力か」


 俺は定期検診の時に紫楓先生に質問してみた。

 能力の複数所持についてとその行使について。

 玲奈との間にはあれ以来溝を感じるのだ。

 一刻も早く原因を突き止めなければ。


「そいつは有り得ないな。吸血鬼の能力は必ず1つだ」


「……」


「強いて言うなら…紅姫と呼ばれる吸血鬼は多数の能力を持てるが…」


 紅姫…。

 聞き覚えは全く無い。

 どういうことなのかも全く分からない。


「私達吸血鬼の間で伝説みたいな存在なんだけど…ほら、おとぎ話のような感じで」


「紅姫…ですか」


「紅伝説──多数の能力を持つ吸血鬼のお話…吸血鬼の頭になると同時に畏怖された存在のお話」


 生まれながらにして吸血鬼の人にとっては当たり前の話だそうだ。

 俺達でいう桃太郎とかそういう流れなんだろう。


「複数の能力っていうのは2つに限らないってことですよね?」


「そう。紅姫なら無限に能力を持てる。だが、その能力はオリジナルじゃない。他人のものだ」


「……どういうことですか?」


「奪うんだよ。他人の能力を」


「────!?」


 いくら吸血鬼としての知識が浅いからといってもその響きが良くない物だということは分かる。

 問題は、奪い方だ。


「……どうやって奪うんですか」


「………吸血鬼を、喰うんだ」




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