第9話 慎重なパトロール

 






──人が倒れている!


「大丈夫ですか!玲奈、救急車は!」


「今呼んでる!」


 状態をさっと目で確認する。

 目立った外傷は無いようだ。

 顔色を確認しようとして視線を移して首筋の異変に気づいた。

 吸血痕…!


「…玲奈、これ見てくれ」


「…!チーフへの連絡できちゃったね…」








「なるほど、白昼堂々…ってわけでもないが吸血事件か」


 実際には真夜中だが俺達にとっては真っ昼間なのだ。

 そんな中での吸血事件は公安局の信頼に関わる。

 そんなことも含めて最優先の事件として捜査されるそうだ。

 吸血鬼である俺と玲奈はもちろんそれに加えられることになった。


「対象は吸血鬼である可能性が高い。捜査時、吸血鬼は常時吸血状態。その外の人間も常に単独行動を控え慎重に動くように。なお、捜査は明日から行う。各自今日のうちにヤマを片付けて欲しい」


 宇佐井チーフの指令で慌ただしく動き出す局員達。

 これは帰るの遅くなりそうだな…。








「…ただいまー」


 公安局組が帰る頃にはもう日は上っていた。

 リビングにはソファで寝ている西深さんの姿があった。


「待ってて…くれたのか」


「いつもいいって言ってるんだけどね…」


 遅くなる度にこうして待ちくたびれて寝ているそうだ。

 結局料理は自分で温めたりすることになるのだが、西深さんのその気持ちだけで心が軽くなる。

 こんな西深さんや今寝ている空蝉さんを危険な目に合わせたくない。

 捜査に全力を尽くそう。








 学校の後公安局に直行する。

 捜査班の編成は歴と相性から俺と玲奈と千賀さんで班を組むことになった。

 俺達は開発地域の担当だ。

 他の事件も発生すれば解決しなければならない。


「捜索も何も手がかりない状態でどうすりゃいいんだよ…」


「要するに、慎重なパトロールって感じだよね」


 俺の愚痴を支援してくれる千賀さん。

 確かにすることはいつもと変わらない。

 ただのパトロールだ。

 開発地域は元々治安は良くない。

 普段のパトロールでもしばしば案件が上がるのを見ることがある。


「…遙斗、あれ怪しくない?」


 玲奈が指差す先には不自然に停められている黒い車。

 そしてそのすぐ横には大きな倉庫がある。

 かなり怪しい。


「だな…千賀さん、チーフに応援要請してくれ。その間に俺と玲奈で偵察しよう」


「了解っ!」


 倉庫の壁に寄り、耳を澄ませながら入り口に近づいた。

 車の中に人がいないのは確認済みである。

 吸血鬼の聴力をもってすれば壁越しでもある程度の音を拾えるはずだ。


「ヤクはここだ。…金は?」


「これだ」


 …当たりだ。

 だが、もう取引は終わろうとしている。

 グズグズしていたら取り逃がしてしまう。

 三人で突入して援軍を待つか?

 …いや、持久戦になんてならない。

 退路を塞いでおかなければすぐに逃げてしまうだろう。

 俺は千賀さんを手招きで近くに呼んだ。

 よし、ここは…


「玲奈、倉庫の裏口から内部に侵入しておいてくれ」


「えっ?」


「千賀さん!陽動を頼める?」


「ま、まあ…」


 これで俺の幻覚能力を使えば何とかいけるかもしれない。

 千賀さんにできれば目立つように公安局だとアピールしてもらう。

 恐らくナメてかかってくるであろう犯人を俺が後ろから攻撃し、幻覚で追い詰める。

 逃げる所を玲奈に捕まえてもらうという単純な作戦だ。


「って感じでどうかな」


 俺は今の作戦を手短に伝えた。

 話し終えて顔をあげると目を丸くして俺を見る2人の姿があった。


「…何か見落としてたか?」


「いや、何か…頼りになるなって…」


 千賀さんが笑顔で返してくれた。

 玲奈は呆れたように笑っている。

 …俺は今までどれだけ頼られてなかったんだよ…。


「とにかく!行くぞ!」


 俺達は倉庫の壁から身を現した。


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