第8話 特別公安理事局




 特別公安理事局。

 吸血鬼を内部に擁する自警団的存在。

 基本的にはパトロールや逮捕などの実務班と調査や事後処理などの工作班、情報統括の総務班に分かれる。

 制服は男性はブレザーとスーツの間のような服、女性はゴスロリとスーツの間のような服。

 観光客を不安にさせず、悪いことを考えている人達への威圧を主とした目的として作られている。


「ここが、公安局?」


「そう!…少し期待はずれだった?」


 玲奈が冗談混じりに言って笑う。

 期待…してなかったといえば嘘になるが、決して秘密結社みたいなのを想像していたわけではない。

 だが…そこはあまりに普通のオフィスだった。


 大通りから一歩入ったような所に入り口がある。


「とりあえず制服に着替えるからいったんお別れ」


「夜来くんの制服姿楽しみにしてるね!」


 右と左と真ん中に道が分かれており右が男子、左が女子の更衣室で真ん中は各班の部屋に繋がっているらしい。


「ふむ、なかなかカッコいいな」


 更衣室に用意されていた制服はなかなかカッコいい物だったが…何となくコスプレしてる感が否めない。

 似合ってる…だろうか?

 とりあえず更衣室を出てさっきの場所に戻る。


 ちょうど向こうから玲奈と千賀さんが出てくる所だった。


「お、夜来くんカッコいい!」


「似合ってるよ、遙斗」


 褒められて少し照れながら改めて玲奈達を見る。

 ふんわりとした短めのスカート、体のラインを強調させるかのように締まったシャツと上着。


「私はどう?」


 冗談混じりにスカートつまんでお辞儀をしてみせる玲奈から目が離せなかった。

 俺が笑ってないのに気づいた玲奈が怪訝な顔をして目で何?と聞いてくる。


「いや、可愛いよ…玲奈」


 なるべく目線を合わせないように言う。

 思ってしまったんだから仕方がない。


「えっ、あ……ありがと…」


 その言葉が予想外だったのか、少し動揺して頬を赤らめる玲奈。

 くそ、空蝉さんがあんなこと言うから変に意識してしまう。


「ねえ!碧唯は!」


 俺達の様子を見かねた千賀さんが声をあげた。

 小さな体にまとう制服は少し背伸びをしているような印象をうける。

 ぽんぽん、と頭をなでた。

 うん、しっくりくる。


「絶対子供扱いしてる…」


「気のせいだって」


 俺は笑ってごまかすと玲奈と千賀さんが所属する実務班の扉を開いた。

 中は案外と広々としていて、所狭しと並んだ感じは無かった。

 そして、奥にいたのは…。


「あ、依頼主の人…」


「来たか」


 奥にいた宇佐井みなみチーフは腰を重そうにあげ、つかつかと俺の元に歩んできた。

 やはり小さい。

 だが、数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう眼光がこの班の過酷さを物語っているかのようだ。


「私の力不足で…君を巻き込む形になってしまった…本当にすまなかった」


「い、いえ!そんな…私は今日からここで働く夜来遙斗です。チーフ」


 そんな人が俺に頭を下げているという事実ともう覚悟は決めてきたつもりだったのというので全く怒りなど沸いてこなかった。

 不思議なくらいに。


「…すまない。……早速だが、パトロールの見学をしてもらいたい。夜来は綵色と千賀どっちと行きたい?」


「…じゃあ、吸血鬼としてもまだまだなので玲奈と一緒にしてもらっていいですか」


 もっともだ、とチーフが頷きシフトをごちゃごちゃと入れ替える。

 普通はパートナーの2人一組でいつも同じ区画をパトロールするみたいだ。

 今日は俺と玲奈でカジノ地区のパトロールをすることになった。


「まあ、別にパトロールといっても毎日事件が起きるわけでもないから」


 玲奈に苦笑いで釘を差されてしまった。

 余程緊張した顔をしていたのだろう。

 一度、深呼吸。

 よし大丈夫だ。


「そう…だな。観光都市で事件が頻発してちゃあ観光どころじゃないよな」


 初めてのパトロールは道案内くらいで終わった。

 本当に何も無いな…。

 と、公安局への帰り道の途中だった。


 噴水の広場に人だかりができていた。

 俺は玲奈と目を合わせ、人だかりに近づいた。


「特別公安局です!何かありましたか?」


 人が左右に避けていき、騒ぎの原因があらわれた。


「これは───」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る