第7話 最後の同居人




「ただいまー」


「あ!綵色さん、夜来くんおかえりー」


 千賀さんが笑顔で迎えてくれる。

 そしてリビングには見たことがない顔が1人。

 最後の同居人か。


「夜来遙斗です。よろしくお願いします」


「空蝉美優紀でーす!はると、ちょっと来て…」


 空蝉さんに部屋の端に連れて行かれた。

 初対面で呼び捨てにされるのも驚いたが、小さく手招きするので少し屈んで顔の位置を合わせる。


「…で、玲奈とはどこまでいったの?」


「ちょっ…別に俺と玲奈はそういう関係じゃ…!」


「私がどうかした?」


 背後から玲奈の声がする。

 あいつ…地獄耳か…。

 美優紀がニヤニヤしながら俺を見ている。

 俺の顔はよほど赤くなっているらしい。

 そんな感情など無いというのに…。


「さ、そろそろ寝よー」


 千賀さんが目をこすりながらのびをした。

 朝が近づいている。

 俺もそろそろ寝よう。


「遙斗の部屋はここ使って!私は向かいの部屋だから何かあったら呼んでね」


 案内された部屋に入る。

 当たり前だがほとんど何も無い。

 明日には本土から荷物が来る予定だ。

 とりあえず今日は寝よう…。






 …翌日。


「おはよう…」


 眠い目をこすりながらリビングに出る。

 まだこの昼夜逆転生活には慣れない。

 …美味しそうな匂いがするな。


「おはようございます!夜ご飯もうすぐですからね!」


 キッチンで腕を振るっていたのは西深さんだった。

 楽しそうに料理をしながら俺の食欲を刺激する。

 西深さんを除けば俺が一番早起きだったようでまだリビングには誰もいない。


「おはよー」


「お、玲奈おはよう」


「おはようございます!」


 玲奈が起きてきた。

 今さらながら…寝起きの女の子を見るなんて初めてだ。

 これからは毎日がそうなのだろうが、仕事中のピッシリしたイメージの玲奈がポーッとしながら洗面所に歩いていくのはなかなか新鮮だった。


「あ、そうだ遙斗。人工血液も飲めるようにならないと」


 洗面所から出てきてすっきりした様子の玲奈が冷蔵庫から明るい赤色の液体が入った宇宙食の容器のような物を取り出した。

 …いかにも血液です!って色してるな…

 そんなことを思いながら玲奈から人工血液を受け取る。


 飲み口のキャップを開け口を付ける。


 ………っ!


 思い切って吸い上げる。

 もう何事もやってみるしかないと昨日学んだばかりなのだ。


「…美味い」


 いや、普通に美味い。

 というかりんごジュースみたいな味がするのは気のせいか?

 俺が吸血鬼になったからなのか?


「誰でも飲みやすいように味が付いてるの。私達はりんご味が多いけど」


「先に言ってくれよ…覚悟して飲んだ俺がバカみたいじゃないか…」


 そんなこんなしてるうちに空蝉さんと千賀さんも起きてきたので皆で夕飯を食べた。

 新品の制服に袖を通し、寮の皆で登校。

 空蝉さんと西深さんは1つ下の学年で俺と玲奈、千賀さんは同じクラスだ。

 …ちなみに向井さんも同じクラスらしい。



 ………。

 学校というのはどこに行っても同じような物なのだということを痛感した。

 うつらうつらと何回したことか…。

 学校が終わると皆仕事に走る。


「さ、遙斗も行こ」


「夜来くん初出勤だねぇ!」


 何となく緊張する。

 特別公安理事局。いったいどんなところなのだろうか…。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る