第5話 入寮と挨拶

 翌日。

 俺の身体に吸血鬼になったこと以外は目立った不具合も見れなかったので退院することになった。

 もちろん特別な例ではあるので万一に備え通院はしなくちゃいけないらしい。


 夜、俺は玲奈に付き添ってもらい家を探すことにした。


「で、昨日何かあてがあるみたいな感じだったが…」


「あのね、私達の寮に空きがあるから…どうかなって」


 玲奈と一緒の寮か。

 顔見知りが近くにいるというのは新生活には大きい。

 だが、果たして俺を受け入れてくれるのだろうか?


「あぁ、寮の皆には許可とってあるよ。…それに、この街も吸血鬼の差別が無いって訳じゃなくて…家が探しにくいんだ」


 なるほど、確かに俺が大家さんなら吸血鬼なんか住まわせたくない。

 玲奈達には悪いが、人間が完全に差別を無くすことができるなんて思えないし。


「今日は早速寮に向かっていいかな?他にも紹介する所あるから」


「分かった。案内してくれ」


 案外この島は大きいらしく、そこそこ距離があった。

 まあ、徒歩ということもあるだろうが。


「ここ!今日は管理局休みだから千賀さんがいるんじゃないかな」


「千賀さん、か」


 少し寮にしては豪華なロビーを過ぎ、二階に上がる。

 ドアを開けて中に入ると、共同スペースと思われるリビングに出た。


「なかなか豪華だな」


「でしょ?元々は寮というより宿泊施設にする予定だったみたい」


「なるほど。道理で…」


 感心しながらリビングを見渡していると、奥から小柄な少女が出てきた。

 俺と目が合い、しばらくの沈黙。


「…この人が例の?」


 少女が玲奈に尋ねる。

 きっと新しい入居者かどうかを尋ねているのだろう。

 玲奈が頷く。


「ここに住んでる千賀碧唯です!よろしくお願いします!」


「あ、夜来遙斗です。よろしくお願いします」


 お互いにお辞儀をする。

 にしても小さくて可愛らしい子だ。

 いくつ下なんだろう?


「ちなみに、私達と同級生だから」


「…えっ!?」


 玲奈の耳打ちに思わず驚愕する。

 女性ってこんなに違うもんなんだな…。


「むっ…。今小さいって思ったでしょ?」


「そ、そんなこと思ってないよ!」


「顔に出てる」


「…マジか」


 思わず自分の顔を触って確認してしまい、余計に不機嫌にさせてしまった。

 怒って膨れてる所を見ると本当に玲奈と同い年なのか怪しくなってくる。


「千賀さん、申し訳ないけどそろそろ行かないと」


「あ、まだ用事あるんだ!頑張ってね夜来くん!」


 さっきの不機嫌はどこに行ったのか笑顔で見送ってくれる千賀さん。

 うーん、女心を理解するまでにはまだまだ時間かかるなぁ…。


「次は、私達の─吸血鬼のための学校に案内するよ」


「やっぱ学校あるのか…」


 大学二年といえばもう社会人でも問題ないだろうと踏んでいたのだが、やっぱりあるらしい。

 慣れた足取りで寮から学校までの道を歩く玲奈。

 この道は通学路になるってことか。

 しっかり覚えておかねば…。


「ここだよ!」


「…割と普通の学校だな」


「そりゃ学校だもん」


 玲奈は笑いながら校門の前で立ち止まった。

 ここは、吸血鬼の他にも生活圏が夜の人間も通っているそうだ。


「それでね…話しとかないといけないことがあるの」


「なんだ」


 いきなり真面目な顔をする玲奈につられて俺も笑うのをやめる。

 学校はもう終わってるようでほとんど誰もいない。


「…遙斗が吸血鬼になった経緯は他の人には話さないで」


「…それは、俺が特別な例だからか?」


「…そう」


 俺が吸血鬼に感染したってことは話しちゃいけないのか…。

 知っているのは当事者とお偉いさんってところだろう。

 もし俺に何かあったときに俺の立場が危うくなるのを防ぐって意味あいもあるのかもしれない。


「もう一つ。この島に住む以上、仕事をしなくちゃいけないの」


「あー、だから玲奈は特別…なんとか事務局にいるわけだ」


「特別公安事務局!さっきの千賀さんも一緒だよ」


 あの子があんな危険な捜査を…。

 世の中本当に分からないものだな…。


「それで、この時期に仕事に就くとなると…厳しくて」


 吸血鬼だから。

 この言葉を敢えて省略したのはさすがの俺でも分かった。


「特別公安事務局なら多分事情も分かってるだろうからすんなり入れると思うんだけど…どう?」


「…そうだな……俺もその方がいいと思う。危険なのは分かってるけど」


 口を開きかけた玲奈の先手を打つように言葉を続けた。

 特別公安事務局なら色んな情報も入ってくるだろう。

 …実際どんな組織なのかはほとんど知らないが。


「特別公安事務局は、要するに警察なんだけど…本土の人達の兼ね合いで、吸血鬼を擁する団体を警察にするわけにはいかないらしくて…」


 ここでも差別問題か。

 なんだかんだで差別される存在なのだ。

 人間の血を吸う化物として。


「なるほど…で、これで終わりか?」


「いや、最後に…遙斗の能力を確認しておかなくちゃね」


「確かにそうだな。俺も気になる」


「じゃあ、行こうか!」


 玲奈がまた歩き出した。

 さすがに学校でやれるはずはないし、何より…血がない。

 俺はこれから能力と同時に吸血を経験するんだ…。

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