第4話 生活の始まり
「私は特別公安事務局の綵色玲奈。玲奈って呼んでくれればいいから」
「俺は夜来遙斗。俺も遙斗って呼んでくれ」
自己紹介もほどほどに、俺と玲奈は散歩をしながら色々話した。
この夢の島は元々人間と吸血鬼の共生のために作られた物だということ。
そのため、この街には多くの吸血鬼がいるし吸血鬼のために深夜も営業してる店も多い。
しかし、逆にここは吸血鬼にとって檻のような存在でもある。
色々な伝説があるが、実際に苦手なのは日光と海水。木の杭で打たれようが石の杭で打たれようが死ぬそうだ。
島であるため、吸血鬼は本土には渡れない。
特別許可があった場合のみ橋を渡っていくことができる。
「ってことは、俺は戻れないのか?」
「…そうなる、ね……」
そして吸血鬼は人間の血を吸って生きる物だが、人間の血を吸った時は各身体能力の向上に加え個々の能力を発揮できる。
だが、そんなことを毎日していては吸血鬼と人間の共生など不可能だ。
故に人工血液という物を飲んで日々生活することになる。
許可がある時を除いて吸血は禁止であるそうだ。
そして吸血鬼の義務として一般人に存在を知られてはならない、というものもある。
「まあ、とりあえずはそんなところかな…」
「なるほど…まあ、とりあえず生活しながら慣れることにするよ」
そして玲奈は噴水のある広場で足を止めた。
俺の方を振り返り、気まずそうに俯いている。
「そして私も吸血鬼なの…」
「…薄々分かってはいたが、そうか」
玲奈が弾丸を止めていたことを思い出す。
あれが玲奈の能力なのだろう。
さしずめ“念力”といったところか。
「驚かないの?」
「俺がそうだと聞かされた時よりはな」
「私を疎んだりしないの?」
「疎むもなにも恩人じゃないか」
玲奈は俺が平然としてるのが解せないようだ。
普通吸血鬼なんて言われたら驚くだろう。
だが、もはや自らがそうなってしまった以上適応していかなくてはならない。
「人間に戻る方法が見つかるまでこっちで暮らすことになる。…家にあてはあるの?」
「いや、ないな。だからといって病院暮らしもマズいよな」
「なら………」
玲奈が携帯でどこかに電話をかける。
切ったりかけたりを繰り返し何やら忙しそうだ。
五分くらいして、玲奈は携帯をしまって俺に向かって笑いかけた。
「うん!また明日迎えに行くからその時に家紹介してあげる!」
「了解。じゃあ俺は病院に戻るよ」
もう深夜から明け方になる頃だ。
またあんな刺激的な朝は迎えたくない。
「待って!」
玲奈が大きな声をあげた。
思わず足を止めて振り返る。
「ごめん…巻き込んで…私のせいで…」
頭を深く下げ、気のせいか声が少し震えている。
俺は女の子に謝られて喜ぶ趣味は無い。
それに、もうこの運命は受け入れたんだ。
謝られる必要は無い。
「謝らないでくれ。俺はもういいから」
「でも…。本当に……」
「じゃあ、あれだ!かわりにこれから俺の面倒色々と見てくれるか?不慣れだから不安なんだ」
…俺の気遣いに気づいた玲奈が微笑んで頷いてくれた。
これから、俺のヴァンパイア・ライフが始まるわけだ…。
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