第2話 吸血鬼
「……くっ…」
目が覚めた。
腕はしっかりと縛られている。
「目、覚めた?」
さっきの人の声だ。
俺の近くで縛られていた。
傷一つ無いのはこの子が商品だからだろう。
「何であなたがここに?」
「いや…さすがに目の前で誘拐が起きてたら放っておけませんよ」
「じゃあ、私を…助けに…」
「それがこんな様ですがね…」
苦笑いする。
ノープランで飛び出したのは本当にバカだった。
警察に通報の一つでもしておけば助かったかもしれないのに。
「大丈夫。アナタは絶対に危険な目には合わせない」
「おい!何ごちゃごちゃ話してる!」
俺達は押し黙る。
この誘拐犯…銃を持っている…。
「…依頼主の宇佐井だが」
依頼主がやってきた。
女だ。背は小さいが風格と威厳は備えている。
ナメてかかってはいけないだろう。
「金は?」
「それより商品は無事なんだろうな?」
「まず金を確認させろ。話はそれからだ」
「…仕方ないな」
宇佐井は手にしていたケースを開き、中を見せる。
万札がずらりだ。
こんな高額な報酬がこの子にかかっている…?
「こいつだ」
俺の目の前で少女が無理やり立たされ、差し出される。
宇佐井は疑り深い目で一通り確認した後、頷いた。
「いいだろう。交渉成立だ」
それに頷き誘拐犯が少女を突き飛ばす。
その少女を宇佐井が受け止めた瞬間─。
「今だ!」
倉庫の外から警官がなだれ込んでくる。
「くっ…しまった!」
模擬弾で誘拐犯達が次々にノックダウンしていく。
宇佐井はどうやら指揮とっているようだ。
これは、まさか──
「おとり捜査か?」
だからさっき、危険な目に合わせないと…。
俺は骨折り損ってわけだ。
ついてないな…。
そこでグイッと身体が持ち上げられた。
「おい!お前ら!こいつがどうなってもいいのか!?」
ボスと思われる女が俺を人質に逃走を図っているようだ。
まったく、ついてない。
俺は少し旅行がしたかっただけなんだ。
なのに、今…俺は犯罪者の人質となっている。 手は縛られ、首に腕が絡められている。
警察と犯人の間に俺が挟まっている状態だ。 相手は女だというのに全く反抗できない。 それほどの腕力だ。
「そいつを離せ!お前は包囲されている!そ んなことをしても無駄だ!」
「それは…どうかな…?」
女の声が耳元で聞こえる。 こいつ、何をしようと…?
────っ!
首に鋭い痛みが走る。
「くそっ!こいつ、まさか…!」
警察の人が苦虫を噛み潰したような顔をして いるのが見える。 俺は一体何をされているんだ…?
「…じゅるっ」
!?
こいつ、まさか…俺の血を吸っている!?
恐る恐る振り返る。
牙を血に濡らした女がニタニタと笑っていた。
「吸血したところで状況は変わらん…罪が重なるだけだ」
「だろうな…なら、こんな脅しはどうだ?」
女は自らの手首に噛みついた。
おれの目の前に血に染まる手首が近づく。
これが、脅し…?
「…くそ…!」
宇佐井の表情がさらに難しいものになる。
今、この女は俺が抵抗しないと思っている…なら俺が動けば…!
「……っら!」
俺は思い切り女の手首に噛みついた。
少しなら効くだろう。
少なくともひるむくらいは──
「…くく…はっはっはっはっ!まさか自分から飲むとは!」
「最悪だ…全員いけえ!」
なんだ…こいつ…何で笑って…?
あれ、力が…?
女から解放された俺は足に全く力が入らず倒れてしまった。
霞む視界に倉庫が燃え上がるのが見えた。
いや、これは本物の炎じゃない…幻覚だと俺には分かった。
「くそっ…発火能力か…」
「私よりそいつを助けた方がいいんじゃないか?…じゃあな!」
違う…こんなにひるむ必要は無い。
俺もまだ大丈夫…なはずだ。
「幻…覚だ!」
「……!なるほど…綵色!」
俺の声が届いたようなのはいいが…今ので体力が…。
綵色─さっき捕まっていた少女─が女の前に立ちふさがる。
「邪魔だ!どけ!」
女がハンドガンを連射する。至近距離だ!避けられない!
と、思ったが。
銃弾は空中で静止し、綵色の体を貫くことは無かった。
「お前もか…そっち側についているんだな」
「あんた達みたいのがいるからいつまでも共生なんて夢って言われるの!」
空中で止まった弾丸が逆の方向に撃ち出される。
弾丸は女を貫き、警官達が抑えつけた。
…ここまで見て俺の意識は本当に薄まっていった。
「チーフ!大変です!この人の意識が!」
「くそっ!そっちを優先すべきだったか…!」
「目を覚まして!お願い!」
……………
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