第20話 早起きは三文の徳の、「本当の意味」

小6の頃、サッカーチームに所属していた。


朝練が週2回あり、朝4時半に家を出て、自転車で20分先の隣町の小学校まで通っていた。5時から練習がスタートする。


後にも先にも、こんな体験をしたことはない。


小学校の国語の教科書で「早起きは三文の徳」という諺を教わったばかりだった。


朝早く起きたら、何かしらいいことがあるのか?期待半分、そんなうまい話なんかあるもんかと疑う気持ちもあった。


薄暗い中、自転車をこぎながら、朝飯と称して、リンゴや柿をタイミングよく獲り、かぶりついていた。


その日は雨上がりで、足元のバランスが狂い、滑って畑の中に自転車ごと落ちた。


リンゴの木に全身を強打したが、幸いかすり傷で済んだ。


土にまみれた自転車を起こすと、自転車のカゴの中に大きなカバンが入っていた。


転んだ拍子に、道路に落ちていたカバンが自転車のカゴに引っかかり放り込まれたのだった。


もしかしたら、カバンを踏んだのかもしれない。


かごに入った、ずっしりと重みのあるカバンを開いてみた。


カバンの中には何枚もの一万円札とキャッシュカードが大量に入っていた。


これが、「リアル早起きは三文の徳なのか!?」と驚愕した。


小6にして億万長者になってしまったという何とも言えない恍惚とした気持ちになった。


このお金さえあれば、サッカーのスパイクやボール、ファミコンのソフト、ビックリマンシールが大量に買えると打算した。


そのカバンをかごに入れたまま、とりあえず朝練に向かった。


胸はドキドキ、勝手に想像が膨らみ、身体の痛みも忘れ、軽やかな気持ちでグランドに着いた。


グランドでボールを蹴る仲間たちが、急にみずぼらしく見えた。


厳しく存在感のあった監督が小さく見えた。


練習が始まると、いくら監督に叱られても、「億万長者だよオレは。誰にものを言っているのだ。僕の召使にでもなるか。」と鋼のメンタルになっていたことに気づいた。


ボロボロの自転車のカゴに入ったカバンが黄金色に見え、ぼんやりとして、ボールを蹴ろうとしても力が入らない。


仲間たちから罵声を浴びても、何も感じなかった。


サッカーを終えると、グランドの近くの駄菓子屋で10円20円で買えるお菓に食らいつく仲間たちを見ながら、「さようなら、君たちとは違う世界に行くんだ。」と奢られたチューチューをどぶに捨てた。


遠くから、「おーい、君、そのかごに入っているかばんは何だい?」と、練習を見に来ていた保護者に呼び止められた。


妙な革製の大きなカバンを見て、不審に思ったようだ。


「練習に来るときに拾ったのです。早起きは三文の徳ですね。」習ったばかりの諺を言ってみた。


「ひゃー。これは凄い!すぐ交番だね。」


この保護者はまともな大人だった。


その後、交番にカバンを届け、1か月後持ち主が見つかった。


チープなお歳暮の残りのようなコーヒーセットを御礼として、カバンの持ちの主から手渡された。


どうして、大金の入ったカバンを落としたのか理由は全く教えてもらえなかった。


当時、竹藪や林から大金が見つかったというニュースがちょこちょこあった。


人には言えない金だなと僕は睨んでいた。


持ち主が見つかっても、3分の1はオレのもんだろうと周囲に吹いていたため、ショックは隠せなかった。


バラ色にいきり立っていた周囲の景色は、再び平凡モードの灰色の景色に切り替わった。


普段見ている景色や体感している出来事は、大金を拾っただけで、こんなにも変わるものかと痛感した。


その逆もしかり・・。


いいことも悪いことも、実は自分の考え方、思い次第でガラッと変わるようだ。


早起きしたことで、徳な考え方を拾うことができたんだと思っている。














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