第19話 天丼くださーい
知り合いの頭部が鈍く光っているお坊さんと、法事の後、食堂に行った。
僕はいつもメニュー表を見ず、その瞬間に食べたいものを注文する癖がある。
狭い食堂、居眠りしている店長に向かって、
「天丼一つお願いします!」と注文した。
店長と知り合いのお坊さんが同時に、
「天丼はないよ!」とハモッた。
僕は、「いつもの癖ですみません。」と謝った。
お坊さんはライトの光を頭部に反射させ、僕を照らしながら、
「お前、ないものをあると勘違いすることを何て言うか知っているか!」と聞いてきた。
僕はまた仏教の話かと思い、適当に「いつもの色即是空のこと?」と返した。
違う違う、「てんどう・顛倒」と言うんだよ。
「天丼?」
「てんどうだ。この狭くて薄汚い昭和レトロの食堂に、天丼があるというお前の思い込みは、心のビョーキそのものだ。執着を捨てて、自由になりなさい。」
「思い込み強いんで。すみません。」僕は嫌な予感がしたので直ぐ謝った。
「判断すること、決め付け、思い込み、一方的な期待・要求は苦しみを生むのだ。」
「ただ、天丼が食いたかっただけです。味噌ラーメンに訂正します。」僕は小声言った。
「この店は塩ラーメンがお勧めだ!」お坊さんは勢い付いてる。
「じゃ、塩ラーメンで。」
「おいおいボーズ、狭くて薄汚いとは何だ。それこそ、思い込みだろ!」店長は怒った。
「目の前の現実を素直に述べているだけだ。何が悪い。店長も自由になれ!」
また、いつものが始まったので、僕はそそくさと店を出た。
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