第15話 美顔ライト

僕は食品加工系の会社に入社した。


4月1日初出勤。


様々な事務的な手続きを終え、総務部の上司に連れられ、工場へ行った。


僕は23歳、同期の5人の仲間も年の差は多少あるが、皆20歳台だ。


工場で働く方々を見て驚いた。


明らかに、僕の父親よりも年上であろうオジサンたちばかりだった。


若い僕らが横に並び一人ずつ挨拶をすると、無表情だったオジサンたちの顔が綻んだ。


上司が、折角のいい天気なので、工場の外で皆で記念撮影をしようと言い出した。


20数人のオジサンたちが無言でゾロゾロと動き出した。


外には写真屋さんらしきプロのカメラマンが、撮影台を並べて待っていた。


記念撮影は毎年の恒例のようだ。


僕らは1列目(最前列)に座った。


前列中央には工場長が座った。


工場長は「高齢化が進んでいるだろ~。君たちは我が社の希望だ!」と笑いながら言った。


大方、オジサンたちが埋め尽くされたころ、事務の女性陣数人が玄関から出てきた。


「今年も美顔ライトポジション残ってます~?」と中年のおばちゃんが大きな声で工場長に言った。


工場長は上を指さし、3列目の中央の隙間に女性陣は流れ込んだ。


僕らは意味不明な会話に戸惑ったが、その後現像された写真を見て納得した。


2列目には綺麗に禿げ上がったオジサンたちが並び、3列目の女性陣はその恩恵を受けていたのだ。


3列目に立ったおばちゃんが、妙に「今日は晴れていてよかったわ~」と何度も言っていた意味が分かった。


禿げていてよかったのである。


高齢化のビックウエーブは止まらない・・。


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