第10話 デタラメな元旦

元旦はデタラメな一日を過ごしてみた。


何をもってデタラメかは人によるので、自分にとってのデタラメを追求する。


7時半に起きた。


寝巻のまま、家の前の道を雪かきする。


いたずら気分でS字クランク状にかく。


巨大雪だるまを作り、目玉(両目)に500円玉を張り付ける。


鼻には一万円札を三角上にしてくっつける。


雪だるまの前には賽銭箱を置く。


張り紙で「ここにあるお金は自由にもっていけ」と・・。


寝巻のまま、車を運転しコンビニでパイナップルの缶詰を買う。


コンビニの駐車場でパイナップルを食べる。


再びコンビニに入り、目をつむって雑誌を数冊選び購入。


千円を渡し、「お釣りはいりません」と言ってみる。


「足りません」と返される。


5万円を渡して、その場を離れる。


誰も追いかけて来ない。


車をコンビニの駐車場に置いたまま、靴を脱ぎ捨て、裸足で町まで歩く。


通りすがりの若い女性に声をかけ、「靴をください」と言ってみる。


スマホで写真を撮られ、逃げられた。


新年会帰りのお爺さんに声をかける。


片方の靴下だけ貸してくれた。


お爺さんは嬉しそうだった。


再び、コンビニに入る。


福袋を大人買いする。


コンビニから出てくる人に、買った福袋を配る。


ほとんどの人は受け取らない。


再び、遠くから写真を撮られる。


公園のゴミ箱に頭を突っ込んで、バリカンで坊主にした。


犬の散歩をしているお兄ちゃんに、「無料で髪カットしますよ。」と言ってみる。


小走りで逃げられた。


上半身裸になり、首に蛇のおもちゃを巻き付け、道路わきに座った。


近所の高校生に雪玉をぶつけられた。


自分の両手に手錠をかけ、口に生チキンをくわえた。


寒くなってきたので、ジャンプをし続けた。


遠くから視線を感じた。


子供に動画で撮られている。


若い警察官が一人やってきた。


「お兄さん、何してるんですか?」


「僕は世界平和を祈っているのです。」


「寒いから、署まで来て温まりませんか?」


猛ダッシュで、近くの橋まで逃げた。


若い警官の方が圧倒的に速く、僕を追い抜いた。


僕はそのまま、橋から川にダイブした。


両手に手錠をかけていたことを忘れたまま・・。


「ザボッン!」


「ガゴ!」


痛かった。


川は浅く、体のどこかの骨が折れた音がした。


そのまま、下流に流された。


顔の半分だけ、水面に出ていた。


息を吸うと、水がのどに入り込んできた。


死んだり生きたりを繰り返した。


体は完全に凍り付いていた。


近くを歩いていたおじさんが、水面から僕を引きずり出してくれた。


上半身裸で、手錠をかけた僕を見ても、何も言わなかった。


焚火に当たりながら、焼き立てのニジマスをご馳走してくれた。


僕がうつむいてニジマスを頬張ると、誰かと電話していた。


嫌な予感がした。


ニジマスをくわえたまま、その場から逃げた。


その瞬間、手錠が外れた。


自由になり、両手を大空に掲げた。


川にダイブしたときに、足を折っていたようで、うまく走れない。


草むらから道路脇に出た瞬間、車にはねられた。


おばさんドライバーが恐る恐る、僕の顔を覗き込んだ。


僕は動けず、倒れていた。


その後、ドライバーは消えた。


夕暮れになり、倒れている僕の存在に誰も気付かない。


野良犬がやってきた。


僕の耳をかじった。


あまりの痛さに、僕は跳び起きた。


まだ生きてる。


まだ走れる。


折れた足、ちぎれた耳で走っている。


コンビニに駆け込んだ。


高校生の新入りアルバイトが、悲鳴を上げた。


コンビニ強盗にでも間違えたか。


警察が駆け込み、上半身裸で、痛々しい僕を押さえつけた。


折れかかった足が、完全に折れた音がした。


救急車が呼ばれた。


コロナ禍、行く病院が決まらない。


体中痛い。


辛く、惨めで、悲しい。


デタラメな元旦。


呼吸が荒くなってきた。


結局、応急処置をしたまま、総合病院の冷え切った通路で待たされる。


夢を見た。


朝起きて作った雪だるまはどうなったのだろうか。


近所の神社に2年参りで参列している人が激減した。


例年とは違う、デタラメな年越しだった。


リモート紅白は、シンプルに曲が楽しめて良かった。


テンシンは強かった。


アラシには、散々振り回された1年。


大分、搾り取られた感は否めない。


僕を介助していた看護師が、アラシからもらったジャージを着ていた。


医療従事者に無料配布したジャージだった。


10万円も配られた。


詐欺なんじゃないかと疑った。


自らデタラメにする間もなく、世の中がデタラメだった。


今年はいい年になりますように。


























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