第9話 どぐそ?
りさ子は、サッカー地域リーグで活躍しているカズオに試合に招かれた。
りさ子は全くのサッカー素人。
カズオとは、半年前バイト先で知り合い、生まれて初めてサッカーを観ることになった。
カズオは試合前、関係者以外立ち入り禁止であるピッチに、りさ子をこっそり入れた。
「ここが俺が走り回るところなんだ。今日、ここで俺がもし得点したら、りさ子に話したいことがあるんだ。」とカズオの顔は固くなっていた。
りさ子は直感でプロポーズを予感した。
りさ子は、困惑し、タイプではなかった彼に何て言おうと下を向いた。
美しく整備された芝生の上に視線をやると、茶色い大きな塊が転がっていることに気づいた。
公園内の一角にあるグランドだったので、犬の糞か何かかしらと想像した。
犬にしては大きなぁと気にはなったが、そこには触れなかった。
カズオの試合が始まった。
りさ子は観客席からカズオのプレーを見守った。
心の中で「得点しませんよいうに」と祈った。
フォワードのカズオは積極的にゴールを狙っていた。
味方チームから相手の背後をとるパスが来て、ゴールキーパーと一対一になった。
その瞬間!
カズオの後ろから、相手の足が飛んできた。
カズオは、相手の足に引っかけられ、顔から地面に叩きつけられた。
観客席がどよめいた。
「どぐそー!どぐそー!」サポータたちから声が飛ぶ。
りさ子は「のぐそ?」と隣にいた友人に確認した。
「どぐそだよ、りさ子、あれはどぐそだよ!」
友人も興奮していた。
りさ子は、「そう言えば、さっき糞みたいのが転がっていた場所だわ。」と思い出した。
隣の友人に、「のぐそって、犬じゃないの?人間のなの?」と確認した。
「犬?人間に決まっているじゃない!」友人は答えた。
カズオは頭に手をやり、痛そうに倒れたままだ。
りさ子は「彼は転んだ拍子に顔でくそをつぶしたの?しかも人間の?」と想像した。
「くそに顔を突っ込んだ彼を、皆でいたわっているのかしら?サッカーって愉快なスポーツだわ。」勝手に想像は膨らむ。
りさ子は、カズオがかっこ悪く見え、思わず笑ってしまった。
カズオを見ると、顔面が茶色く汚れている。
りさ子には、顔面くそまみれの彼が愛おしくさえ感じた。
「のぐそ!のぐそ!」とりさ子はサポーターと一緒に叫んだ。
ケタケタ笑いながら・・。
後半、糞起したカズオは得点し、観客席にいるりさ子に手を振る。
りさ子は軽く視線を逸らした。
試合後、カズオはりさ子にプロポーズをした。
カズオの顔面は何となく茶色く汚れていた。
カズオはりさ子がハンカチで鼻を抑えている様子が気になった。
りさ子は「のぐそで大変でしたね。お疲れ様でした。」とハンカチを離さなかった。
カズオはレッドカードだった。
※DOGSO(ドグソ)とは「Denying Obviously Goal Scoring Opportunity」の略でサッカー用語である。「決定的な得点機会を阻止する」ことを示すファール行為だ。 サッカーでは決定的な得点機会をファールで阻止することを、悪質なプレーとみなし、ファールをした相手選手は退場(レッドカード)となる。
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