第10話 長くなるのでカット編集しますね

「えっ、なっ……!? 嘘、だろ……!? そんな、なんで……!?」


 予想外の事態に、混乱する。これは僕の知っているはずの大前提が狂ってしまった証拠だ。今までこんなことはなかった。

 マガツは楽しそうにニヤニヤと笑っている。それを見てイラッとしたおかげで、少しだけ冷静になった。


「……ねえ、マガツ。説明をしてくれるかな? なんで……スタート地点が変わってるのか」

『ひひ、今までは機会がないから説明してなかったが……お前が意識を失った場合、目覚めたら時間がスタート地点になるんだぜ。単純に俺様が見ていて退屈な時間は減らしたいからなぁ。まあ、主催者の裁量ってもんだ』

「このクソ邪神! そんな勝手なことを……! いや、待った。その僕のスタート地点が変更されて……僕が事件解決できない場合はないんだよね? 詰むことはないんだよね?」

『ひひ、そりゃ当然だろ? 見て楽しくもねえからな。無理ではないはずだ。まあ、お前の努力次第ってやつだな』


 そんな風に言うマガツ……自己中心的で性格は最悪だが、ルールに対してフェアであるこの邪神は、そういう意味では信用できる。

 マガツが楽しんでいるのは、僕が苦労して痛めつけられながらも事件を解決している光景らしい。だから、解決が不可能な状況にして、その中でもがく僕を見て楽しむつもりはないんだとか。

 だが、それはあくまでも「無理ではない」でしかない。つまり……


「すでに仕掛けは動いてるはずだから……! ああ、クソ! すぐに動かないと駄目か!」

『ひひひ! さあ、どっちが死んだんだろうなぁ! ほら、頑張れ頑張れ!』

「ああ、くそ! 殴りたい!」


 ニヤニヤと笑うマガツをひっぱたきたくてたまらない。いや、効果がないのは分かっているのだが。

 事件の仕組みを前段階で防ぐことは不可能だ。しかし、今から止めることは出来る。なぜなら、皐月さんはアリバイを作るために遠隔で事件を起こしているからだ。


(まず、二人は部屋から出ていないことは間違いないと見よう)


 息子の方は、どの程度体調が戻っているかはわからない。だが、それでもすぐに調子が良くなるとは限らないし……気まずいから出会いたくないだろう。

 妹さんもあまり、輪に入りたいというタイプではなさそうだ。それに、調子が悪いから部屋で休んでいる可能性がある。

 さて、どちらが犠牲になったかを考えよう。事件を起こす前提で考えるのであれば……


「息子の方だね」

『ほう、そりゃなんでだ?』

「まず、皐月さんはいくつか事件のための仕込みをしてるはずだけど、妹さんの殺害に関しては一つだけだよ……あの部屋で使われた、自殺に見せかけて殺す。そのトリックしかないはずだよ。少なくとも……事件が起きた時に僕も調査したんだ。もし、何個もトリックの準備がしてあるなら、僕が見落とすわけがない」

『ひひひ、それは探偵の矜持ってやつか?』


 静かに頷いた。

 この亡霊島で起きた殺人事件はあの時の最善を尽くして調査した。そこで、もしも他に使おうとしていた仕込みがあるとすれば違和感などを見つけ出している。

 少なくとも、探偵を名乗る以上は僕はプライドを持って断言出来る。


「それに、妹さんの部屋は二階だからね。食堂やら何やらは全部一階にあるから移動時間が増えすぎるし……体調を崩したと言っても、すでに起きている妹さんに気づかれないようには難しいと思う。だから、息子さんが殺されたと考えるよ」

『まあ、わかったぜ。んで、どうするんだ?』

「まあ、正直お腹は減ってるけども……食事は一旦はキャンセルかな」


 やることは決まった。そして、丁度そこで皐月さんがノックをする。

 食事をどうするかという質問に、違う返答をする。


「すいません、今はそこまで空いてなくて……食べるのが遅くなっても大丈夫ですか?」

「ええ、構いませんよ。食べる時は言ってくださいね? すぐに温めてお出ししますから」

「はい、ありがとうございます」


 そして皐月さんは歩いていく。せっかく作ってくれて、こうして迷惑を掛けるのは申し訳ない。

 しかし、それでも僕は殺人事件を止めるために動くしかないのだ。たとえ、皐月さんがどれだけの覚悟を持って……どんな思いを持って事件を起こしたとしても。

 しばらく時間を待ってから、部屋を出る。廊下に人気はない。そのまま足音を消して降りていく。


『なんで堂々と歩かねえんだ?』

(皐月さんが息子さんを殺そうと仕込みを動かしているなら、今まさに警戒している最中だろうからね。食堂に人を集めているのも、自分のアリバイを保障させるためかな。息子さんが死ぬまで誰かに干渉されないように警戒しているかもしれないからね)

『そうかい。んでもよぉ……今のお前、探偵ってより泥棒みてえだな』


 ……まあ、何か言おうと思ったがやってることを考えると否定はできない。

 家人に見つからないように気配を殺しながら、屋敷を歩き回ってるし……と、息子の部屋にたどり着く。


(……さて、まずはノックをしてみようか)


 軽くノックをする。しかし返事はない。

 とはいえ、これは考えていた。寝ている可能性も考えて、扉を開こうとしてドアノブに手をかけ……開かないことを確認する。


(うん、閉まっている。今度はもうちょっと大きい声とノックで……)


 ドンドンと扉を叩く。


「すいません、少しいいでしょうか?」


 しかし、返事はない。相当大きい音をさせているはずだが……一切反応がない。

 本当に眠っている場合はあるだろう。しかし、巻き戻しが起きた以上は今現在何かが起きている。そう仮定する。


「ピッキングは……無理だね。開けるのは難しい」

『ピッキング出来たらマジで泥棒だな』

「うるさいよ。でも、息子さんの部屋に……あっ」


 慌てて隠れる。足音が聞こえた。

 そして歩いてきたのは……予想通り皐月さん。


「……さっき大きな音がしたような……」


 そう言って扉に手をかけて、開かないことを確かめる。

 首を傾げて、しばらく待ち……そのまま離れていく。


(……バレなくてよかった)


 安心しつつ、脳裏で何が起きているのかを組み立てていく。

 ……さて、まずは犯人が不在の状態でどうやって殺すのか? 密室で殺人を使うなら死因はどうするのか?

 まず、時限式の装置を考える。しかし、あまりにも手間のかかった装置は処分の手間を考えれば使われる可能性は低い。


(……まず、この息子さんの宿泊している部屋は一階の角部屋。窓は一つしかなかったはず……)


 可能性として浮かび上がるのは……そこで、今度は外に向かって走っていく。

 外から見て、息子さんの宿泊している角部屋にたどり着いた。重厚な窓は締め切られている。そして確認し……どこにも換気する場所が存在しないことを確認する。


「……窓は……ダメだな、開かない。カーテンも締め切ってる」


 つまり、現状は空気が漏れる要素がないということになる。

 ……密室で、空調の存在しない部屋。


(部屋が密閉されている状態なら、そこで取れる方法は限られてる)


 二酸化炭素……もしくは一酸化炭素。入手性などを考えれば練炭当たりか? 犯行にはそれを通せるスペースさえあればいい。

 予想通りなら……現在は息子さんの宿泊している部屋は一酸化炭素で充満しようとしていると考えていいだろう。


(匂いもなく、きちんと調べないと息子の死因は不明になる。犯行道具は燃え尽きれば問題はないし、残っても回収すればいいと)

『ほーん、そんな上手くいくもんか?』

(まあ、何度か実験はしたんだろうね。この部屋に案内したのは皐月さんだ……とはいえ、ここで僕が見つけた時点で話は変わる)


 少なくとも正攻法で開けるのは難しい。誰かを頼ろうとしたら……皐月さんに止められたり妨害される場合もある。

 ならば取れる手段は一つだけだ。


「よし」

『ん? 何をするんだ?』


 マガツの言葉に答えずに、近くの手頃そうな石を見つける。

 大きいサイズはないが、手頃なサイズの石は見つけた。


「さて、これに……」


 上着を脱いで、そこに石を入れる。

 出来上がったのは手製のブラックジャック。石を詰めた布袋の状態になる。


「せーのっ!」


 そして、それを振りかぶって……窓に向かって振り下ろした。

 ガシャンととんでもなく大きい音を立てて、窓ガラスが割れる。そして、僕は窓が割れて風が通っていることを確認してから、すぐさま上着に詰めていた石を捨てる。

 そして……上着を抱えて一目散に屋敷の中へ逃げこんだ。


(よし! 予想通りならこれで問題なし! これで換気されるだろうし、物音に気づいた誰かが部屋に入ろうとするはずだ! トリックはこれで破れる!)

『……窓ガラスを割った犯人については?』

(結果的に事件を防げたら問題はなし! 僕が犯人だってバレてないなら尚更問題はなし! 大事の前の小事ってやつだよ!)

『……やってること、泥棒よりもひでえな』


 ……正直、返す言葉が思いつかなかったので返事はしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る