第9話 リセットポイントは編集しておきますね

 さて、道中では色々と斎藤医師から話を聞くことが出来た。

 話好きなのか色々と語る相手が欲しかったのか様々なことを教えて貰い、そのまま屋敷へ無事に戻って来ることが出来た。


(聞いた内容としては前回と同じだけど……うん、丁度良かった。ここで話を聞ければ、時間を作って聞きなおさなくてもいいし)

『ん? 聞き直す必要があるのか?』

(持ってる情報が不自然なのはよくないからね)


 知らないはずの情報を知っているというのは、犯人からしても被害者からしても恐怖だし警戒の元だ。

 場合によっては、事件を止める前に自分が犠牲者になったり監禁されたりする理由にも成り得るのだから。


(だから、皐月さんの家庭事情とか亡くなった主人についての話をここで聞けた事は本当に助かったんだよね)

『ほーん、そういうもんか』

(そういうものだよ)


 斎藤医師は、色々と話せたことでどこかスッキリとした表情をしている。

 ……墓まで隠すというのは、簡単なようで難しい。誰かに伝えたかったのだろう。


「ふぅ……済まなかったね、わざわざこんな老人の話を聞いてもらって……だが、桜人について色々と思い出せたよ」

「こちらこそ、興味深い話だったので楽しく聞けました」

「今回の件に関しては、関係ない君にこの島の事情に付き合わせて申し訳ないね……梅生くんも悪い子ではないんだが……」


 遠い目をして苦笑をする医者に、曖昧な表情を浮かべておく。

 ……元を正すと、僕の自業自得なのだ。僕が焚き付けなければ、息子さんは動くことはなく皐月さんも祠でトラブルに巻き込まれることはなかったのだから。

 しかし、少し気になった。


「息子さんとは、よく会話をするんですか?」

「ああ……彼の母親の主治医だったからね。彼の母親は数年前に亡くなっているんだよ」

「そうだったんですか」

「葬式の際に、桜人の奴は島から出てこなかったからね……彼女と桜人はそれこそ、本気でお互いを公然と罵倒する程に不仲だったとはいえ、葬式にもでない桜人に梅生くんも相当に荒れてた……いや、こんな話をして悪かったね。それじゃあ、君もゆっくり休むといい」


 ……複雑な事情を聞いて複雑な気分になりながら、医者と別れる。

 しかし、それを気にして行動することが出来なければ本末転倒だろう。


(……今の状況を整理しないとな)

『ようやくか。はぁ、マジで退屈だったぞ』


 と、静かだったマガツがそんな風に言う。

 心底退屈そうだったので、本心から退屈をしていたんだろう。いい気味だ。


(第一声がそれ?)

『つまらねー話ばっかりだったしなぁ。俺としちゃ、お前が色々やってんのは見てて面白えがジジイと話してる光景見てもつまんねえんだよ』


 ……まあそりゃ、見てるだけのマガツからすれば退屈だろうな。

 とはいえ、必要だと僕が明言すればマガツは否定はしないし邪魔をすることもないだろう。一応、マガツに仕返しできる時のために覚えておこう。


(まあいいや。それじゃあまず……確認が必要だね)


 そのまま、2階に上がっていく。そこには

 ……すると、丁度部屋から出てきた妹さんと出くわした。まあ、中年の女性で……神経質そうな表情をしている。


「頭痛……ん、あんたは……?」

「どうも、探偵です。今日は代理で来たんですが……その、大丈夫ですか? 体調が悪そうですが」

「……そう」


 一言だけ残して下の階へ行く。恐らく方向的には医者のところか。調子が悪いから薬でも貰ってくるのかもしれない。

 ……ふむ、恐らく何らかの睡眠導入剤か何かで眠っていたのかも知れない。とはいえ、計画通りに行かずに起きているなら問題はないだろう。


(さて、彼女がしばらくの間はなにもないと考えるなら……ターゲットにされるのは息子さんの方かな?)


 そう思って息子さんの宿泊している部屋へと足を向けて……その扉は固く閉じられていた。

 ノックでもしてみるかと思ったが、僕が急に挨拶に来ると考えると……逆の立場になって考えたら、正直言って顔を合わせたくないなぁ。故意ではないとはいえ、怪我をさせた相手だし。


(ただ、ここで突然殺されるってことはないだろうし……皐月さんも、屋敷に宿泊している人のため、作業があるだろうからね。しばらくは事件は起きないんじゃないかな……ちょっとは平和な時間が続くとおもうよ)

『そうかいそうかい。あー、退屈だぜ』

(はは、そりゃいいことだね)


 邪神が悔しそうな表情をしているのを見て、すっとした気分になる。

 ……しかし、思ったよりも調子が良くないな。頭を打ったダメージもあるかも知れないと思い、少し休憩するかと自分の部屋へと戻っていくのだった。



 ……目が覚める。ベッドの上で横になったら寝入ってしまったようだ。夢も見ないくらいの熟睡だった。

 気絶と睡眠は違うからなぁ。死にまくった精神的疲弊も合わせて疲れが抜けていなかったらしい。


「……ぐっ、んん……! あー、寝ちゃってたか」

『よう、起きたか』

「おはようマガツ。時間は……」


 時間を見ると……19時か。第二の事件が起きた時間はとっくに過ぎているが、巻き戻しは起きていない。


(これを見ると、やっぱり第二の事件は突発的……というか、本来は予定にない事件だったのか)


 自分の予想はある程度は正解していたかと納得する。

 しかし、ここからはどうなるかわからない。皐月さんの動き次第では、事件は既に起きているというかの雨声すらある。


「……そういえば、前回の場合はかなり雰囲気が重かったなぁ。この時間」

『そりゃそうだろ。ちょうどこの時間辺りで二人目が死んだしな。飯だって全員部屋で食ってたろ?』


 前の記憶が蘇ってくる。

 わざわざ全員の食事を部屋に皐月さんが配膳していたんだった。美味しかったが、殺人事件の最中に部屋で食べるのは味気ない食事だった記憶がある。

 

『お前が飯をモソモソ食ってるのを見てて、しょっぱい顔をしてたのはしっかり覚えてるぜ。ひひ』

「……そういう時、話し相手にならないよね。マガツ」

『俺は事件が終わってからじゃねえと出るつもりはねえからな。最初の事件くらいはちゃんとお前が解決するべきだろ?』

「……はぁ、そりゃそうだけどね」


 マガツの、こういうフェアな部分に関しては正直に言えば好感が持てる。まあ、だからといって普段の言動が許せるわけじゃないんだが。

 と、そこでノックの音が聞こえる。出てみると皐月さんが立っていた。


「どうされました?」

「はい。そろそろ夕食の時間なのですが、探偵さんはいかがなされますか? もしも体調が優れないというのなら、お部屋に食事を運びますが……」

「いえ、食堂で食べます。一人っていうのも味気ないんで」

「分かりました。では、私も食堂に戻るのでご一緒に行きましょうか」


 皐月さんとともに、食堂へと向かう。

 歩きながら軽い雑談をする。


「食事は皐月さんが作っているんですか?」

「ええ、その通りです。屋敷のことに関しては私がしているので……もしもお口に合わなかったら申し訳ないのですが」

「いえ、大丈夫です。きっと美味しいですよ」

「ふふ……ありがとうございます」


 冗談だと思ったのか、ちょっと笑みを見せてくれる皐月さん。

 ……まあ、一人で食べた時に味は知ってるからね。不安に包まれる屋敷の中、部屋で一人食べるご飯は味気なかったが、美味しいのはちゃんと覚えている。


「大変ですね。全部一人でやるなんて」

「いえ、好きでしていることなので……でも、いつまで出来るかわかりませんが」

「え?」

「あ、いえ……なんでもありません。そろそろ食堂ですね」


 その言葉には、いろいろな感情が含まれているように感じる……だが、それを掘り下げる前に食堂にたどり着いていた。

 そこにはすでに食事をしている医者と友人の2名だけ。


(……息子と妹は不在なのか)


 妹さんに関しては体調不良だろうか。息子さんに関しては……まあ、シンプルに気まずいんだろう。皐月さんとも僕とも顔を合わせたくはないんだろうし。

 まあ、とりあえずは食事を取ろう。皐月さんが運んできてくれた食事に手をつける……うん、美味い。


(マガツ)

『なんだ?』

(午前2時。これが事件の終わりで間違いなしだったはずだよね)

『ああ、そうだ。俺が宣言した時間に特例はねえ。早く終わることも遅く終わることもない。きっかり事件の終わりで殺人は起きなくなるぜ』


 これはあくまでも確認だ。こんなに長い事件をやり直すことはなかったので聞いておきたかった。

 終わりが遠いというのは、精神的にも辛いものがある。本当にこれでいいのかという不安も襲ってくる。


(折り返し地点って感じだけども……中々先が長いのは辛いものだね)

『犠牲者も今までに比べて多いからな、ひひひ』

(こうやって平和な時間が続くと、やり直しがしたくないよ……)


 そんな風にマガツと雑談をしながら食事を終える。

 他の2人はまだ食事をしているようだ。まあ、彼らに関しては年齢が年齢なのでゆっくりなのは仕方ないだろう。話を聞ける状態ではなさそうだ。


「ご馳走様でした……さてと」


 ここからどう動くか。皐月さんの動きに注目をしておくべきだろうか。

 そんな事を考えていると、皐月さんが厨房から出てくる。


「あ、探偵さん。お食事は十分でしたか?」

「ええ、もうお腹いっぱいですよ」

「それだったら良かったです。若い人が少ないから、足りるか不安だったので……」


 和やかな会話。さて、これなら気を張って監視をしなくてもいいか。

 そんな風に考えて……突如として灰色に視界が染まり、世界が止まった。


「なっ?!」

『ひひひ! 残念だな! 死人が出たぜ! 巻き戻しだ!』

「なっ……! ああ、クソ! 僕が寝てる間に仕込みをしてたのか……?」


 その疑問に答える前に、急に全身に激痛が走る。

 四肢が紐で繋がれて、とんでもない力で引っ張られていた。ギチギチと、体が引き裂かれる感覚。


「ぎっ……!? ぐ、うう……!」

『さあ、四肢裂きだ! なかなか経験しねえだろ!?』

「普通はっ……経験することは……ないんだよっ……!」


 自分の体が、まるで物のように引き裂かれていく。激痛の中でブレーカーでも落ちたかのように視界が真っ暗になる。

 ああ、やり直しだ。そして視界は戻っていき……


「ごほっ! はぁ、はぁっ……!」


 意識が戻る。睡眠などで精神的な休息をしたおかげか、多少は精神的な余裕が出ているし体の調子も戻ってきた。

 さて、皐月さんに言い訳をしなければ……と考えてから、拭えない違和感があった。それは自分の体を包む感触に、目の前に広がる光景。横を見ると、そこには……


『ひひひ、おはようさん』

「……マガツ?」


 ベッドの上……そう、眠っていた僕が起きた場所。時間を見る。19時……それは、間違いなく僕の起きた時間だ。

 ――スタート地点が更新されてしまった。

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