第6話 作業展開は倍速処理しますね
「……なるほど。貴重なお話をありがとうございます」
「いや、こちらこそ。久々にこの話をできてよかったよ。懐かしい気持ちになれた」
「それはよかったです」
にこやかに笑みを浮かべて挨拶し医者の部屋を出る……さて、早速一番近い部屋に居た医者に話を聞きに来たのだった。
話の内容としては……主に故人である厳島桜人について。なんでも、昔からの知り合いらしく思い出話といって色々と教えてくれた。
(さてと……厳島桜人について、いろいろと教えてもらえたね)
『あんま聞いてなかったわ。適当に纏めて教えてくれ』
(マガツ……まあいいけどさ)
面倒ではあるが、こういった誰かに話すという行為は必要である。
脳内で自分の持っている情報を整理して纏め、新しい考えに至る事ができる。なのでマガツにちゃんと教える。
(厳島桜人は、元々この亡霊島の出身だったらしいんだ。まあ、最後の住人って言うわけだね。子供の頃に母親と島を出てから本土でその身一つから成り上がって一代で財を成した。あまり他人と打ち解けるようなタイプの人間じゃなくて、この亡霊島にこだわっていたそうだよ。後年、離婚をしてからこの島を残った財産で買って終の棲家にした。これが一般的な情報だね)
『おうおう、偏屈な爺さんだな』
(そうだね……とはいえ、大なり小なり人には事情がとあるものだよ。元々、この島の住人は帰属意識が高いっていうのは皐月さんから教えてもらったし……納得はできるよ。ずっと、本土で成り上がったのもいつか、生まれ故郷に帰るためだったからなのかもね)
恐らく、本土にいた時には馴染めなかったのかも知れない。その理由が生まれ故郷に帰りたかったと考えると納得できる。
そして、離婚をしたのは……まあ、結婚はしたけども分かり合えなかったということなのだろう。
『……んで、それがどうしたのよ』
(そんな彼がこの島で重用していたのが皐月さんのお母さん。そして、彼女が亡くなった後には皐月さんを雇って使用人として家のことを任せている。そこに事情がありそうだと思ってね。今からそれを聞いてみるつもりだよ)
そして、目的の部屋へ。ノックをすると、中にいる彼からどうぞという声をかけられる。
その言葉に従って中に入ると……そこには、ゆったりと座っている老人が一人。彼は厳島桜人の数少ない友人である芹沢さんだ。
「おや……君は確か、探偵の代理で来ていた……」
「ええ、はじめまして芹沢さん。すこしお話を聞いてもいいですか?」
驚く芹沢さんへ笑みを浮かべながら聞くと、彼は構わないとばかりに頷いてくれた。
「ありがとうございます。父の代理で来たのですが……その際に、厳島桜人さんについてを関係者から聞いてきて欲しいと頼まれまして。大丈夫でしょうか?」
「なるほど……ああ、構わないよ。彼の話をする機会も減っていくだろうからね……それで、何についてを聞きたいんだい?」
「そうですね……話しづらいかもしれませんが、この屋敷の使用人である皐月さんと……その母親について。それを教えてくれますか?」
その言葉で、ほんの少し表情をこわばらせる友人。
それは、予想だにしない……語りづらいことを聞かれた反応だ。
「それは……本当に必要なことなのかい?」
「はい。くわしく説明することは出来ませんが……これは必要なことです。信用できないならそれでも構いません。それで……どうでしょうか?」
その言葉に考え込む芹沢さん。友人で事情は知っているのだろうが……それでも、亡くなった彼についてのこういう話をするのは躊躇われるのだろう。
「……いや、そうだな」
しかし、僕を見ていて芹沢さんはふっと肩の力を抜く。
それは決意をしたような表情だ。
「この話は私と……亡くなった彼に斎藤、そして皐月ちゃんの母親しか知らない話だ。本当に墓まで持っていくつもりだった」
「いいんですか?」
「ああ……これでも、私は人を見る目はあると思っている。君はきっと、この情報を悪用しないと信じられる……それに」
そして疲れたような表情を見せた。
「抱え続けるには重すぎる……そういう話だよ」
……ここまで言われると聞いていいのか不安になるが、それでも我慢をする。
そして、芹沢さんはゆっくりと口を開いた。
「あの子の……皐月ちゃんの父親は、桜人なのだよ」
「そう、なんですね……」
『ひゅー! ドロドロじゃねえか!』
邪神がテンションを上げていた。可能性は考えていたが、純粋に事実に驚く。
……しかし、退屈だの色々言うくせに、こういう下世話な話で興奮するのは神様の癖に格が低いなぁと心の中で思う。いやまあ邪神だからいいのか?
「皐月ちゃんの母親は、彼と似たような境遇でね。元々生まれ育った田舎町を出て苦労をしていたようだ。その時、偶然にも桜人は使用人を探していた。当時、彼は既に家庭では不仲で……」
(……まあ、余計な話もあるし適当に聞き流しながら情報を纏めようか)
『俺が言うのも何だが、お前も俺のことを言えないくらいにクソ野郎だよな。やーい、冷血漢! 非人道! 名探偵!』
(うるさいよ。あと、名探偵は辞めて)
『それが一番イヤとか、やっぱり変人だな。ひひ』
邪神の言葉を聞き流しつつ、真剣に聞いてるように見せかけながら脳裏で今後の道筋を考えていく。
(……まあ、余計な部分は除いても結構な確執があるというか……亡くなった厳島さん、何も言わなすぎだよね)
『まあ、俺とは気が合わねえだろうな。喋らねえやつは退屈なんだよなぁ』
(いや、それは聞いてない)
と、そんな無駄話をマガツとしながら情報を纏める。
(……なるほど。まず、皐月さんは厳島さんの隠し子だけどそれは伏せている。で、元々体の弱かった皐月さんの母親は出産から体を壊して頑張ったけど亡くなったと……皐月さんは、そこから本土の学校に通いながらこの島の使用人をしてたと)
『ほーん。そこで本土で夢を見つけて島を出る! ってノリじゃねーと面白くねえよなぁ』
(現実はそう面白くならないよ。それに、人にもよるからね。皐月さんにとって、大切なものはこの島に全部あったんだろうし)
母親との思い出に、この島で年老いた主人を一人で残したくはなかったのだろう。
……まあ、ここに関しては皐月さんに聞かないとわからないが。
「……それはどこまで皐月さんは知ってたんですか?」
「少なくとも……私が知る限りでは、殆ど知らないはずだよ。彼女には……こんなしがらみは知らずに生きて欲しいと願っていたからね」
(とはいえ、それが原因で殺人事件につながってる気がするんだよな……皐月さん、あんまり息子さんとか妹さんにいい感情を抱いてないみたいだし)
『いいねぇ、こういう皮肉は大好きだぜぇ!』
本当に最悪だなこの邪神……とはいえ、色々と繋がってきた。
少なくとも、隠していることは皐月さんに色々と影響を与えているだろう……特に、元の家族と不仲だったことと、彼女の母親の死……この2つを結びつける可能性だってある。しかし、ここまで聞いてから一つの結論を出す。
(やっぱり、皐月さんのこれは計画的だね……突発的ではないみたいだ)
『ほーん、そうなのか? 最初の時は、突発かも知れないとか言ってたが』
(理由が揃いすぎてる。それに、突発的にしては偶然で済まされないレベルで皐月さんにプラスとして状況が動きすぎてるんだよ。用意をした上で、トラブルに対処してたと考えるべきだね)
偶然ではなく、これは準備をして決められていた殺人事件だと断定する。さて、そうなれば次は……
「お話ありがとうございま……す……?」
脳裏で情報を纏めてからお礼を言って、思わず思考が停止する。
世界が灰色になり、時間が止まっていた。そして、ニヤニヤとしたマガツが宣言をする。
『ひひ! 残念だが巻き戻しだ! さあて、ここで三回目! そろそろ体も限界になるんじゃねえか!』
「……まさか、皐月さんが殺したの!?」
『さあて、どうだかなl!』
祠で何かがあり、殺してしまったのか!? 計画的だったのか、違うのか分からなくなる。
……いや、ここまで来たら僕がやることは……
『さあ! 次は溺死だ! ひひ! さっきはこんがりだったから嬉しいだろ!』
嬉しいわけがあるかと文句を言おうとしたが、すでに喉からはゴポゴポと水の音しかしなかった。
窒息している。吐き出そうとしても水は出てこず僕の呼吸をせき止める。もがきながら、水の中に溺れる苦痛を味わう。そのまま酸素が失われていき……
「がっ……ゴポッ……」
『絞殺と溺死ってのは、おんなじような死因だってのに死に方がこんなに違うのがおもしれえよなぁ』
何も面白くないと思いながら、僕の視界は急速に真っ暗になっていく。
ニヤニヤ笑うマガツという邪神の顔を最後に見て僕は溺死した。
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