第4話 チャートのために通しプレイは必須
そして、しばらくして合流した皐月さんと屋敷から出る。
亡霊祠まで歩きながら、皐月さんからは亡霊島の伝承についての話を聞いていた。
「……そして、伝承だけが残ったんです。それから、外の人からはこの島の事を亡霊島と呼ぶようになったんです」
「なるほど……本当に詳しいですね、皐月さん」
「ふふ……実は、旦那様の書庫からこの島の古い資料などを見せてもらって……だから、多分一番この島について詳しいと思います」
「へえ、それは本格的ですね……皐月さんが古い資料を集めてたんですか?」
「いえ、旦那様が個人的に集めているものだったらしくて……ただ、旦那様はあまり読まれなかったようですが。それで、興味があった私が見るようになって一番詳しくなったんです」
伝承について詳しい話を聞きながら感心する。
普通の女中さんのような皐月さんだが……この亡霊島のことについてはまるで学者とでも言うような熱意と詳しさだ。と、マガツが不意に僕に語りかける。
『おい、そのねーちゃんの言ってた内容纏めて教えてくれ』
(ちゃんと聞けばいいのに……まあ言っても仕方ないか。まず、元々はこの島にはとある村があった。神様の伝承が伝わる村が滅びて、その話だけが残って外の人間から亡霊島と呼ばれるようになったんだよ。で、その村で行われた伝承っていうのが今回の事件の発端になった生贄を捧げる事に繋がるわけなんだけど……そういえばさ、マガツとしては神様に生贄を捧げたりするのはどういう意味があるの? 魂とか?)
『んー? 色々あるが……そこまで関係はねえぞ。俺達としちゃ、面白けりゃいいんだよ。感覚的には娯楽だな。まあ、俺達を楽しませろ、気に入ったら手助けしたり褒美を取らしてやるってだけだ。生贄とかは俺の趣味じゃねえなぁ。どうせほっといても死ぬんだし、人間なんて。まず大昔に見飽きたってのもあるからな』
(あー、うん。想像以上に俗っぽい回答ありがとう)
とはいえ、娯楽と言われれば確かに納得はできる。まあ、どうせマガツの弱点などに繋がる情報はある程度は伏せてるんだろうけどもだいたいは真実だろう。
……しかし、ふと疑問がある。亡霊島と呼ばれるようになった原因……そして、村の滅びた理由。
「……なんで亡霊島になったんですか? いや、伝承が残っているのはわかるんですけど……亡霊って名前がつくのは不自然な気も」
「やっぱり疑問に思いますよね」
その質問は分かっていたとばかりに答える皐月さん。
どうやら、亡霊島になった理由もちゃんとあるようだ。
「元々、この島は本土の人に狙われていたそうです」
「狙われていた……この島になにかあったんですか?」
「はい。昔は海産資源がたくさん取れて、この島で取れる鉱物もあり……風景だってとても良かった。そんな恵まれていた島だったんです。今ではもう、見る影はありませんが」
そう言われて、島をざっと眺めてみる。
……確かに。今は完全に廃墟とかした島といった風情だ。長い年月の間にこの島にあった何かが失われてしまったのだろう。
「この島に住んでいた人々は排他的……というよりも、独自の文化圏があったんです。ですから、当然ですが島の外からは様々な物を狙って古くから様々な人が占拠をしようとしたり、取り入ろうとしてきたんです」
「なるほど……でも、この島の人は頷かなかったと」
「はい。多少の交易などはあったそうですが……この島は神様を祀り、生活の中心になるほどに崇拝していました。だからこそ、その存在に配慮しない外の人間には決して島には乗り込ませず、時には武力を持って排除していたそうです」
ふうむ……まあ、そういう文化があったとしても時代と共に廃れてしまうのは世の常だろう。
しかし、まだ亡霊に繋がる話は出てきていない。
「それが亡霊に繋がるんですか?」
「そうですね……昔の資料で、この島に攻め入ったとある城主の話があるのですが……まるで物怖じもせず、死を恐れず。それどころか、死んでいるはずのものが起き上がり襲ってくる。その姿はまるで亡霊のようであったと書かれていました。そこから、本土の人間からは亡霊の住む島だと伝わり……亡霊島になったそうです」
「……まるでゾンビパニック映画ですね」
「ふふ、確かにそう言われるとそうですね。もしかしたら、日本で最初のゾンビかもしれません」
そういって笑う皐月さん。ちょっと失礼だったかもしれないが、気にしなくてよかった。
……ふむ、なるほど。そのまるでゾンビのように立ち向かった力が神様の力だったと……しかし、この島が寂れているということは……
「でも、結局この島は……守りきれなかったんですか?」
「そうですね……亡霊のように立ち向かっても、結局は死んでしまったそうです……だから、人口は減っていって、当然ながら残ったのは数少ない戦いに出ることも出来なかった老人や女性……子供だけ。時代と共に村の存続すら出来ず、最後には泣く泣く残った島民は島を後にして本土に移住したそうです」
「……なんとも寂しい話ですね」
「そうですね……でも、本土に移住した人たちは郷土愛が強く、何度もこの島へ神様のために戻ってきたそうです。ただ……もう、それも旦那様が居なくなってしまったので残っていませんが」
なるほど……それが全容だと。
亡霊島という、なんとも不気味な名前になった経緯もその話を聞けば納得はできる。
「皐月さん、教えてくれてありがとうございます……そういえば、どういう神様が祀られていたんですか? そこの部分を聞き忘れたんですが」
「村に残っていた伝承では、あの世とこの世を繋げる黄泉の神だったと言われています」
「なるほど。だから亡霊のように……なんて話になったんですね」
「ええ。伝承には死者を蘇らせてくれたなんて話もあったりして……」
と、そこで言葉を切った。目の前には、古びた洞窟のような場所。
話しながら歩いていたので思ったよりも時間がかかったが……ここがその祠というわけか。
「この中です、探偵さん。神様を祀っている祠です」
「なるほど。それじゃあ失礼して……」
踏み込むと、空気が変わる。洞窟のような場所にあるのもそうだが……なんというのか、何かが切り替わったような感覚。
気になってマガツを横目で見るが、プカプカ浮かんで特に興味はなさそうだ……まあ、この邪神はあくまでも僕の行動を見て楽しんでいる。他の神だのそういうのには興味がないのだろう。
まあいいや。茶々を入れられるよりはいい。
「……思ってるよりも綺麗ですね」
「時間がある時に祠の掃除をしているので……ただ、足場はちょっと不安定ですから気をつけてくださいね? それと、あまり乱暴にして祠を壊したら直せる人が居ないので……」
「はい、わかりました」
注意を聞きながら、見てみる。
なんの変哲もない……というのには、年季が入っている祠だ。それこそ、何かがあると言われれば信じる程度には。
観察するように見せながら、脳裏で情報をまとめていく。
(……彼女が神様の生け贄に選んだ被害者の3人には少なくとも、何かしらの確執があると思う)
『ん? そんな情報あったか? 退屈な話を聞いてるだけだと思ったんだが』
(まあ、あくまでも予想だけどね。彼女のこの島に対しての思い入れは相当に強いからね。ただ、情報が足りないから確実とは言えないけど……多分、そこに関して集めれば確定すると思うよ)
『ほお、名探偵の推理ってやつかい?』
ニヤニヤして言われて、思わず表情を歪めそうになるのを必死で押し止める。
……この邪神、僕が名探偵と呼ばれるのが大嫌いだと知っていてこう言っているのだから最悪だ。
(……さて、そろそろかな。少なくとも、皐月さんが屋敷を出るまでに時間がかかったのは恐らく仕掛けの仕込みをしてたからだ……まあ、次のやり直しの方針は見えたかな)
『おう、その分お前が死んで苦しむわけだな。ひひひ』
そう言って笑うマガツを無視して脳裏で情報を組み立てていく。
最初の被害者を殺すためには仕掛けを組み立てる必要がある。逆に言えば、その時間を防ぐことが出来れば彼女の最初の殺人は止めれる可能性が高い。
第二の事件……そちらに関してだが、少しだけ推察がある。情報を集めればそちらも止めれる可能性はあるだろう。
(さて、どっちに聞くべきか……いや、いっそのこと両方に……?)
『ひひ、考え事をしてる所悪いが……』
マガツの楽しそうな声にリミットが来たと察する。
そして、世界が灰色になって時が止まった。最初の被害者が死んでしまったのだろう。
『さて、巻き戻しだ! ペナルティの準備はいいか?』
「覚悟はしてるよ……だからさっさとしてくれるかな」
『ひひ、もうやってるぜ!』
ふと気づくと、今度は僕の足から刺すような痛みを感じる。
……見れば、僕の体は足から燃えて上がっていた。燃え盛る炎はドンドンと体を焼いていく。火を消せないかと体を動かすが、消えることはない。むしろ、動くほどに火が広がって苦痛が増していく。
『さあ、火炙りだ! こんがりとジューシーに焼けちまうなぁ!』
「ぎっ、が……暫くは、ローストを、見たくもないかなっ……!」
火が燃え上がっていく。痛みと熱。そして、消せない炎の熱で呼吸すら困難になっていく。
止めようとして体を転がして、それで広がって更に苦痛が増していく。
「ぎゃあっ、あ、ぐ……っ……っ!」
熱い。熱い。熱い。燃えていく。息もできない。焼死というのは、苦痛な死に方だという。実際に体験すれば、たしかにこれは何十苦という死に様だ
体が勝手に痛みで動き、動くことでさらに炎で焼かれてしまう。耐えきれない痛みで悲鳴が勝手に出てしまう。
永遠に思える苦痛だが、気づけば声は出なくなっていた。
「っ……!」
体が痙攣し動かなくなる。窒息なのか、ショック死なのか……どちらかわからないが僕の体に限界が来たと理解できた。
そのまま僕は、自分を燃やす真っ赤な炎を見ながら焼け死んだ。
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