第3話 通しプレイの1周目はミスをするもの
被害者が殺されてて、また事件の最初へと戻ってくる。
しかし、巻き戻しされて何もなかった……というわけにはいかない。
「げほっ! ぐっ、ごほっ……!」
咳をする。呼吸を求めて、体が必死に反応している。
「探偵さん!? ど、どうされました? 顔が真っ青ですけども……」
「ぜぇ……いえ、船酔いが抜けてなかったみたいで……あはは、突然ぶり返してきちゃいました」
そう言って弱々しく笑みを見せる。今度は最初のときのような演技ではない。本気で弱っている状態だ。
というのも、巻き戻しでなかったことになるとはいえ……死を味わうというのは精神的にも大きい苦痛なのだ。そして、そのあまりにも辛い苦痛は肉体にも反映されてしまう。
死に戻りをするたびに、僕は苦痛に酔って体が反応してしまうのだ。とはいえ、一回程度ならまだなんとでもなる。
「大丈夫ですか、お医者様を……」
「いや、大丈夫ですよ。ちょっと部屋で休めば十分元気は出ますから」
「そう、ですか……分かりましたけども、本当に無理はなさらないでくださいね?」
「ええ。分かりました」
そう言って心配をしている皐月さんと別れる。最初の部屋に通された時と同じ状態になって、ようやく調子も戻ってくる。
……さて、ここからだ。一周目の失敗は教訓として活かそう。いや、というかもう絶対に同じ轍は踏まないと決意する。
『ひひひ、どうするんだ? さっきみたいなのを見せてくれるってなら、もう一回死んでもいいんだぜ?』
(嫌だよ。必要なら仕方ないけど……意味もなく、無駄に死ぬなんてゴメンだよ。ただでさえ死んだらキツイのに……なんにも得られず死ぬのを繰り返したら今後にも影響がある)
『普通は何か得たとしても、死んだら苦しんでとんでもなく影響があるんだけどなぁ』
マガツから面白そうにそう言われるが、なんとかなっているのだから仕方ないだろう。
やり直すたびに殺される事は代償としては、重いか軽いかで言われれば……いや、どっちとも言えないか。
なにせ、事件をなかったことにするという事自体が異常なのだ。プラスやマイナスの次元で語る事自体が間違いな気がする……いや、思考がどうでもいい方向に偏っている。事件のことを考えよう。
(……さて、でも全く何もなかったわけじゃない。僕が倒れても殺人事件は起こっている。まあ、予想通りではあるけども……ちょっとしたトラブル程度じゃ辞めるつもりはないみたいだね)
『そうだな。ひひ、ああ見えても肝の座ってる姉ちゃんじゃねえか』
(事件としては皐月さんは自分から伝承通りに神様を呼び出すため……まあ、言うなら儀式のために殺人を犯したことになるけども……まず、本当に動機は正しいのかまで調べないとね)
屋敷に来てからの、彼女の交流では多少人となりはわかった。だが、恨みや動機について知るほど彼女を知っているわけではない。
僕が推察しているものも、短い交流から予想できる内容を導き出しているにすぎない。
(そうだな……まずは、最初の事件を遅延させるように動こうか。あくまでも止めるわけじゃなくて、皐月さんについて知るべきだろうからね)
『おっ、悠長なことを言ってんな。もしかして、死ぬのが癖になったか? ひひっ』
(……仕方ない代償ってものだよ。巻き戻すタイミングは被害者が出た瞬間だよね? なら、そのタイミングをずらさないと話にならないからさ)
『おう、その通りだぜ。死者が出た瞬間が巻き戻しの条件になっている。お前が楽をしてクリアするなんてつまらねえだろ?』
楽しそうにそう言うマガツ。多分僕が苦労するほど面白いから言ってるのだろう、この邪神は……とはいえ、文句を言っても仕方ない。
別に死んでいいというわけではない……だが、これは犠牲者を出さないための次に繋げるため必要な事なのだと心の中で覚悟をする。
「……さて、まず今回来てる来客は僕を含めて5人」
声に出して纏めていく。この亡霊島の亡くなった主人、厳島桜人との関係は色々だが……まずは医者。そして、息子と妹。さらに友人と僕だ。ここに皐月さんを含めて6人になる。
ここの主人はもうすでに隠居していて、この屋敷に来てから殆ど外部との付き合いもないに等しい。だから、形見分けも色々と世話になった相手と血縁だけを呼んだとか。
「その中で殺されたのは、最初の被害者が妹。次が医者、最後に息子。そして……彼女の四人」
『さっきの爺さんだな。ひひ、あんだけ知り合いだって顔して会話して殺すなんてヤベー奴じゃねえか』
「……まあ、事情はあると思うよ。だからこそ、推理をする時に彼女が犯人だと断定するきっっかけになったんだから」
もしも皐月さんが本気で覚悟をしていたら……死体などから自分のことを割り出される前に殺したかったのもあるかも知れない。
とはいえ、そんなことをするとは思えない……事情があったとは思うのだが。
「……よし、そろそろ行こうか」
時間を見て部屋を出る。皐月さんを探さなくても前回の周回で場所は把握している。
そして、記憶通りに廊下を歩いて皐月さんを見つける。そのまま、声をかけて足を止めてもらう。
「皐月さん」
「あれ、探偵さんですか? なにかご用事でしょうか?」
にこやかにこちらへ歩いていくる皐月さん。その表情に焦りなどは見れない。
……彼女は被害者を眠らせている。恐らく、睡眠薬かそれに等しいものを使ったのだろう。恐らくその薬がある間は自由に動くはずだ。
だから、ここで彼女の興味を引く話題をする。
「いや、父さんからの用事を思い出したんですよ。ついうっかりしてしまって……」
「用事……ですか? それは一体どんな……」
「この亡霊島の伝承について教えて欲しいなぁって……元々、僕の父親から調べてほしいって頼まれてたんです。亡くなった当主さんにそれに関する話を聞いてから、どうにも興味がそそられるからと……」
「それは本当でしょうか!? この亡霊島に興味を持ってるんでね!?」
「うわっ……!? え、ええ。そうですね」
想像通り……いや、思っている以上の食いつきを見せた皐月さん。
この亡霊島の伝承について、彼女は殺人事件を起こすほどに傾倒している……いや、マガツの存在を考えれば本当に実在するのだろう。
最初の時、皐月さんが伝承について色々と教えてくれていたので、こうしてキッカケを作って聞けば色々と答えてくれるだろうと思っていたが……推察は正しかったようだ。
『ひひ、頼まれただなんてよく言うぜ。お前の親父から頼まれたのなんて、どうしても行けないから俺の代わりに出席してくれってだけだってのに』
(嘘も方便だよ)
『ああ、そうだよなぁ。素直に信じてる乙女の気持ちを弄ぶのだって嘘も方便だよなぁ? 嘘が嫌いって知ってるのになぁ?』
ニッコニコで煽りまくるな。この邪神。アドバイスはしないが、こういう茶々を入れるのは喜々としてやる。本当に厄介なやつだ。
……いや、気を取り直そう。目の前で気の所為ではなくテンションが高くなっている皐月さんに話を尋ねる。
「僕自身、この島に来てから伝承があると聞いてから気になっていて……とはいえ、ここに来た人で詳しそうな人はいませんでした。だから、一番詳しそうな皐月さんに話を聞きたいんですが……大丈夫ですかね?」
「はい! 大丈夫ですよ! この島の伝承については亡くなった旦那様より詳しいと思います!」
「そ、そうなんですか」
「でも、教えてほしいという人も聞いてくれる人も居ないので、あまり意味はないのですが……」
と、そこで微妙にトーンが下がる。思い浮かべているのは……この島に来た面々のことだろう。
……ふむ、どうやら来訪者にいい感情は持っていないと。それも今回の被害者に関連している可能性はあるな。ちゃんと覚えておこう。
「あー、そうですね。出来るならなにかその伝承に関わる場所を見てみたいかも。いい場所をしっていませんか?」
「場所……ええ、それでしたら少し歩いた所に伝承の伝わる祠があります。そこを見に行きますか?」
「祠ですか、いいですね。見に行きたいです」
「では、少々待っていてくださいね? 準備をしてきますから」
そのまま小走りに用意をしに行く皐月さん。ウキウキとした表情は、あの事件を起こした犯人とイコールで繋がらない。
……いや、まだ彼女は誰も殺してないのだ。だから、あれは皐月さんの素なのかもしれない。
『……そうそう、ふと思ったんだけどよぉ』
(ん? 急に何?)
『良かったじゃねえか。お前、女にモテねえって言ってたよな? 初デートじゃねえか』
(……ああ、うん。殺人を止めるために打算を持って嘘をついたデートだけどね)
マガツにしては珍しい、悪意のない一言。
しかしその言葉を聞いたせいで、人生で初めての女の子とのデートが、こんな血なまぐさい中で楽しめるような物ではないことに気づいてしまった。
……その事実は、ここ最近で一番ショックだったかもしれない。
(……巻き戻すし、このデートはノーカンにならないかなぁ……)
『……まあ、お前が良けりゃノーカンになるんじゃね?』
(煽ってよ……惨めになるからさぁ……)
煽られるどころか、マガツにフォローされたせいで尚更凹んでしまうのだった。
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