09話.[応えてくれた彼]

「天音、起きろ」

「ん……あと15……30分」

「さっきもそう言っていただろー」


 仕方がないから体を起こしたらめちゃくちゃ寒かった。

 床に足をつけるとキンキンに冷えていて思わず飛び上がったぐらいだし。


「ほら、ふらふらしていたら危ないぞ」

「ごめんごめん……にしても」

「なんだ?」


 上を見上げると彼の顔がよく見えるようになった。

 いや、成長しすぎでしょこの子、なんでお兄ちゃんである新より10センチも大きくなってしまっているの?

 私より新が12センチ大きくて、それより更に10センチも大きいなんて。

 あ、ちなみに私が160センチだ、意外と大きいでしょ?


「仕事だろ、早く準備しろー」

「はぁ、小学生時代はあんなに可愛かったのに……」

「は? いまでも可愛いだろ、家に帰ったら『天音ー』って同じように甘えているよな」


 そうかな? 最近はなんか昔と違って勢いがないというか。

 私としてはいつまでもいつまでも最初みたいに求めてほしい。

 不意に抱きしめたりキスとかしてほしい、その先のことは夜じゃないとできないけど。


「俺も頑張るから帰ってきたら今日は映画でも見ようぜ」

「はは、じゃあそれのために今日も頑張ってくるかなあ」


 少しでも離れなければならないのは嫌だった。

 それでも私もちゃんと稼がないとまだまだ駄目だから仕方がない・


「天音、大好きだぞ」

「そりゃそうじゃないと困るよ、私達は結婚しているんだから」

「そうだなっ、じゃあ今日も頑張るか!」


 彼は本当に私だけをよく見てくれた。

 私が男の子といるとすぐに嫉妬してきたぐらいで。

 だから驚いているし、彼みたいに真っ直ぐな子だったらそりゃそうだろうと考えている自分もいる。


「しゃがんで」

「ん? はい――撫でるのも昔と違って一苦労だな」


 ああ、あのとき純絵さんと彼が頑張ってくれて良かった。

 そうでもなければ結婚どころか話すことすら不可能になっていたから。

 こっちは不貞腐れてて駄目駄目だったけど、悪いことばかりではなかったと言える。


「うん、それとこうして触れておけば浮気しなくていいかなって」

「酷いな、俺は天音一筋だよ、こうなっているのがその証明だろ?」

「うん、そうだね!」


 応えてくれた彼に私も堂々と向き合わなければならない。

 あの頃とはなにもかもが違う。

 そして自分達の努力で勝ち取ったことだ。

 もうどちらも社会人というくくりだから文句は誰にも言わせない。

 どこの夫婦よりも幸せになってみせると決めているのだ。

 それが彼とならばできる気しかしなかった。

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