02話.[本気でびくぅ!]
「ごめんっ、お待たせっ」
「だいじょ」
うん? それじゃあ大丈夫だとは思えないよ?
とりあえず現在時刻は17時05分、場所は福島家の外。
鬼母を鬼説得して着付けてもらって、慌てて走ってきた結果がこれ。
「行こっか、もうやっているだろうし」
「……うん」
むぅ、着てこいって言ったのは奏くんなのに。
まあいいや、このもやもやはそこそこ食べることですっきりさせよう。
とにかくお祭り会場はもうそこそこの人がいた。
いっぱい買って食べている人ともすれ違ったし、いまこそ財力を見せつけるべきではないだろうかと考え、けれど自分で待ったをかける。
やけ食いをしてしまったら女として終わる気がしたからだ。
「そこのおふたりさん」
「ん? あ、新くん」
はぐれないように奏くんの手は握らせてもらっているからそのまま近づくことに。
「焼きそば買ってください」
「それなら3つで」
「ありがとうございます」
「あ、やっぱり4つで」
両親の分と先程からなにも喋っていない奏くんの分。
そこそこ重たい袋を受け取って早速食べることにした。
「はい」
「あ……お金」
「いいよ、年上だから」
「はは、なにそのドヤ顔、でもまあ……ありがと」
よし、なんとか暗い状態からは治ったようだ。
割り箸を割って豪快にすすって、すすって……、すすれないからゆっくり食べたよ。
できたてで温かくて美味しい、問題があるとすれば青のりや鰹節が歯についたりしていないかというところだけど別にこれからキスをするわけでもないからね、あまり気にしないでおこう。
「ごちそうさまでした」
いまので2000円消費……中々に痛いぜ。
幸い軍資金はまだ8000円ある、もちろん全部を使う気はないけども。
「どうしたの? あんまり楽しそうじゃなさそうだけど」
「……見られたくない」
「あ、ごめん」
「そうじゃなくて、天音を見られたくない」
や、やっぱりなんか恥ずかしい感じなのだろうか。
こんな見てくれなのに朝顔の模様の浴衣なんて選んだからか!?
こういうのってお淑やかな子が着用するべきだよねという偏見がある。
例えば髪の毛は腰ぐらいまであって、綺麗で素敵な人だったらって考えがね。
「だって、可愛すぎるから」
「ありがとう」
私より浴衣で可愛い子がいっぱいいる場所で言われても……。
なんか急に虚しい気持ちになってきた、奏くんを責めるつもりはないけどさ。
焼きそばで2000円失って、小学生の子からは明らかに無理しているような感じでお世辞を言われる、女としてぼろぼろだよもう……。
「ごみ箱に捨てて見て回ろ――」
「あー! 奏くんだ!」
これはもしかしなくても小学生達に囲まれていることになるのでは?
年上なのに私にできたことはなるべく空気でいること、それだけだった。
「お姉さん、私達奏くんと見て回りたいんですけどっ」
「あ、それは奏くんに聞いてくれないと、でも、私達は約束――」
「いいよ、一緒に行こうぜ」
「やったー! 奏くんをお借りしますね!」
「う、うん」
が、一応保護者的な存在だから花火が終わったら入り口で集合ということにして別れることになった。
新くんにも任されているからしっかりしなければならない。
任せたのは向こうにもお兄さん的な大きい人がいてくれていたからというのがある。
「ふぅ」
私が他のお友達を優先してほしい的なことを言ったから仕方がない。
「こんばんは、先程は買ってくれてありがとうございました――って、奏は?」
「振られちった、他の女の子と見て回り始めちゃったよ」
お姉さんちょっと悲しいよ、あんな即答されちゃうのはさ。
その後なんかこっちのことはもう見てすらなかったし、声すらかけていかなかった。
私だけが入り口で集合っ、と声を出していただけで、小学生の子達には面倒くさそうな顔で見られていただけという悲しい結果に終わったわけだ。
せっかく浴衣だって着てきたのになんだこれ、虚しさが沢山あるぞ。
「新くんはお手伝いもういいの?」
「うん、見て回ってこいって追い出されちゃってね」
「じゃあ一緒に見て回ろ、このままじゃ帰れないよ」
「分かった、天音ちゃんは買ってくれたからね」
って、そうじゃなければ付き合ってくれんのかい。
たまに忘れそうになるけど新くんと友達だから奏くんともいられるようになっただけ。
……いまはもう忘れてしまおう、お世辞なんか言われても嬉しくないやい!
「あ、福島君」
「こんばんは」
なんかどちゃくそ美人な人に話しかけられているんですが。
いても悪いからと帰り入り口に集まるように彼に言って帰ることにした。
「はぁ、2000円無駄遣いじゃん」
歳を重ねていくとお祭りも純粋な気持ちで楽しめなくなるんだなあ。
私ももう17歳、来年は18歳で高校生活も終わってしまう。
「ただいまー」
「おかえり」
「あ、お母さんにこれあげる」
「ありがとう、お父さんと分けるわ」
「ふたり分あるから、お風呂に入ってくるね」
若い子達には敵わん。
私を見る目が冷たかったもん、なにこの女って感じでこっちを見てた。
奏くんは意外と怖がりだから恐ろしい展開にならないよう自衛した可能性も0ではないけど、あの子達も可愛かったから男の子としていいなと思ったんだろうな。
対する私は奏くんからすればばばあみたいなもの、可愛くもなければ年上らしくもない女ということになる。
そりゃ無理だわ、私が小学生側だったとしたら絶対に同級生を選ぶよ。
「ふぅ……」
そもそもの話、卒業したらゆっくり見て回れないかもしれないしね。
対する私は新くんと友達でいる限り会える可能性はあるから問題もないか。
というか、いまのままだと気持ち悪すぎなのでは?
小学生に付きまとう高校2年生って字面だけでやばいと分かる。
夏休みもそろそろ終わるから距離感というやつを考え直すことにしようと決めた。
「ごめんっ」
夏休み終了まで残り2日となったときのこと、いきなり洗濯物を干していた私の背後に現れたうえに、いきなり謝罪をしてくるというコンボを重ねてきた。
「謝ることはないよ、お友達を優先してほしいって言ったのは私なんだし」
わざわざ距離感を正そうだなんて口にしない。
そんなことを言えば必ずなにか言ってくるだろうからだ、逆になにも言ってこなかったらそれはそれで悲しいから避けておこうという考えもある。
「ちゃんと新くんと一緒に帰った?」
「うん、約束は守ったよ、けど……天音がいなかったのは驚いたけど」
「途中で帰ってこいって言われてね、お母さんの命令には従っておかないと後が怖いからねー」
リビング前の段差に座って彼を招く。
言うことを聞いてくれて横に座ってくれて、でも、まだ気にしているみたいだった。
「気にしなくて大丈夫だよ」
「ごめん……」
「それより楽しかった?」
「うん、友達のお兄さんが食べ物買ってくれた」
「良かったね」
私といるときは楽しくなさそうだったからね。
小学生は深く考えずに楽しむことが必要だと思うんだ。
苦い思いなら後で何回も味わえるから、いまはただただ無邪気にね。
が、同級生といるのは年齢も近い分、話題とかも合って楽しいんだろう。
「夏休みの宿題は終わった?」
「あと、読書感想文がある、天音の家でやろうと思ったんだ」
「そっか、じゃあ入りなよ」
読書感想文か、語彙力もやる気もなかったから~でしたばかりで終わらせていたなあ。
提出すれば先生もとやかくは言ってこなかったから義務的作業的だった。
別に上手く書けたからってなにがどういいことに繋がるというわけでもないしね、提出し忘れた人に比べればそれでもやっただけという考えをしていたし。
でも、彼にはこんな可愛げのない考え方をする人間にはなってほしくないけど。
「これから読書?」
「もう読んできた、だから後は書くだけ」
「そっか、じゃあ私は自由にしているから」
今日は大して汗もかいていないから気にせずにベッドに寝転ぶ。
頑張っている相手の目の前でするにはおかしなことだけど、ことこの件に関しては近くにいたってどうしようもないからね、代わりにやるなんてこともできないし。
というか奏くんもわざわざ時間を空けてここに来たもんだなあ。
お祭りは12日で今日はもう25日なんだけど。
お姉さん的には寂しいよ、段々と疑似姉離れみたいになっているんだなって。
「……今日までどう過ごしてた?」
「お母さんに怒られない程度にだらだらしていたかな」
段々と暑さもそこまでではなくなってきていたから昼寝が捗った。
新くんには美人なお友達さんがいることが分かったし、誘えなかったし。
奏くんとの距離感を考え直すつもりだったので同じように誘えず。
そうなると遊べるような仲の人がいないというのが私の悲しい現実だった。
「俺は兄貴と遊んだり、友達と遊んだりした」
「夏休みらしく過ごせたのなら良かったね」
「うん、小学生最後の夏休みだったから」
じゃあその小学生最後の夏休みに変なのが出しゃばるのは違うわな。
良かった、変に誘わないで、彼も少しずつ大人になっているということなんだろうし。
「でも、まだできていないことがあるんだ」
「え、もう夏休みも終わっちゃうよ? 最後なんだから頑張ってやりなよ」
学生時代はなんてことはなくても後から後悔するかもしれないから。
1日が終わる度に今日もいい1日だったと言えるような感じにしなければ駄目だ。
私ではできなかったから可能性がまだある彼にはちゃんと言う、私のことを見てこうなってはいけないと考えてくれればそれでいい。
「おれは9月からだから」
「あ、そうなんだ、それでそのしたいことって言えないのかな?」
彼は鉛筆を置いてこちらを見た。
何気に私も見ていたからそこで目が合った形となる。
「天音の家に泊まりたい!」
「え、それ夏休みじゃなくても良くない?」
「……夜遅くまで話がしたい」
可愛いかよ、奏くんはもっと気をつけた方がいい。
私がもーっとやべーやつだったらいまのできゅんときて抱きしめていただろうから。
「昔は泊まらせてくれたのに最近はさそってくれすらしないから……」
「いや、奏くんが泊まりたいって言ってくれればご両親や新くんに許可を貰おうとしたけどね」
なんにもなくてもいいなら一緒に寝るぐらい問題もないだろう。
逆に変な風に警戒したときの方がやばい、そうなったら男の子として小学生の男の子を見てしまっているということに繋がるのだから。
「じゃあ奏くんのお家に行こうか、それでお母さんかお父さんが帰ってくるまで待っていよう」
もちろんその間に読書感想文の方は終わらせてもらうけど。
彼もその条件で納得し、母に帰ってくるからと説明して外に出た。
8月終盤の外はなんとも言えない感じだ、少なくとも涼しいという感じではなかった。
「あ、また天音ちゃんのところに行っていたんだ」
「新くん、奏くんを私の家に泊めたいって言ったらどう思う?」
「別にいいんじゃない? どうせ奏が言い出しているんだろうし」
よく分かっているね、流石お兄ちゃん。
「天音ちゃんとご両親がいいならいいんじゃないかな、奏も喜ぶだろうし」
「うん、だからあなた達のお母さんかお父さんに説明して許可を貰うよ」
「大丈夫だよ、僕の方から連絡しておくからさ」
いやでもとごねたものの、大丈夫攻撃を前に私はあっさりと敗北。
それでも問題になったときに社会的に死ぬのは私だから彼を置いて家を出た、連絡がきたら迎えに行くことに決めて。
「あれ、天音ちゃん?」
「あ、
何故会えたのかは福島家の玄関前で待っていたからだ。
恐らく福島家の人からしたら迷惑極まりない存在だったと思う、私のことだけど。
外で会えたのならと自分の方から説明させてもらったらあっさりと許可を貰えてしまった、あまり言いたくないけど大丈夫なんだろうか?
「ついでにどっちかの彼女になってくれれば嬉しいんだけどねえ」
「え、どっちかって……奏くんは小学6年生――」
「好き同士なら関係ないと思っているからっ。もちろん、変な人間だったら私達の方で切り裂くけどね! でも、天音ちゃんのことは小さい頃から知っているんだよ? 任せたいと考えるのはそうおかしくもない話でしょ?」
確かに私の母も新くんと付き合えばいいのにってよく言ってくる。
いやだからって奏くんはねえ、これから可愛い女の子と沢山知り合って誰か特別な人を見つけるだろうからこんなのじゃね、あはは、無理無理。
とにかく許可は貰ったので奏くんには着替えの準備をさせる。
「忘れ物はない?」
「うん」
読書感想文もちゃんと終わらせて純絵さんに渡していた、偉い。
私としてはなんにも不安はなかった、寧ろ楽しくなるだろうぐらいしか考えていなかったのだった。
奏くんのための敷布団もちゃんと敷いて寝る準備完了。
でも、どうやらまだまだ寝る気はないみたい。
目をこすったり、頬を軽くぱちんてして眠気をどこかにやろうとしているのを見る度に可愛くてやばかった、なんなら純絵さんに許可を貰ってから抱きしめたかったぐらい。
「眠たいの? 明日はまだお休みだから寝たらどう?」
「やだ……」
「でも、そのままだとすぐに上瞼と下瞼がくっついちゃうよ?」
もうお風呂には入っているから寝落ちしてもなにも問題はない。
が、小学生最後の夏休みということでどうしてもこれを達成したいんだろう。
……少し裏技的な感じになってしまうが後ろに回って彼を抱きしめた。
これは自分のためだからやばいけどここで寝たら後悔するだろうからね。
「へっ!?」
「ふふ、寝ちゃだーめ」
年上のお姉さん感を演出!
こう耳に息を吹きかけるようにしてやれば、ふふ、やばいやつの完成だ!
「わ、分かったから……はなれて」
「うん、だから寝ないでね」
ベッドに戻ったらすぐにうつ伏せになって恥ずかし死していた。
相手が奏くんじゃなかったら通報されてそれで終わりだよこれ。
いや、そんな大して知らない子を抱きしめたりなんかしないけどさ。
流石にそこまで見境ないわけではない、奏くんと自分のためにしたのだ。
「いまのでねむくなくなった」
「それなら良かった」
ただ恥ずかし損ではなかったらしい。
それだけで十分だ、これで後悔しなくて済むよね、奏くんの方は。
「こんな時間に起きているのは初めてかもしれない」
「偉い、夏休みだからって夜ふかしとかしなかったんだね」
「うん、兄貴や母さんや父さんがうるさかったから」
「ううん、奏くんのためを思っているからこそ言ってくれているんだよ。ちゃんと寝ないと身長も伸びないからね。私としては私よりも10センチぐらいは大きくなってほしいかなー」
そうすれば少し見上げることになって格好いい彼の顔が~なんて。
ま、そのようなことになるときには私は20を越えていてよりふふって感じだけど。
はぁ、新くんに話しかけていたあの人みたいに美人であったなら!
……そうすれば好きになってもらえたかもしれないのに。
だって求めてきてくれているの奏くんだけだよ!? 私としても女としてさあ意識してしまうというかさあ、好き同士なら、踏み込んだことをしすぎないのであればさあ……。
「それならもっとねないと、おやすみ!」
「え、あ、おやすみ……」
え、申し訳ないから電気消したよ。
それであっという間に寝始めちゃったよ。
私の抱きしめは……引いたから眠気が飛んだみたいな感じだったんだろうな。
いいよいいよ、微妙な気持ちを抱えながら私も寝るよ。
だって夜ふかしさせるわけにはいかないんだから自分から寝てくれて助かったぐらい。
お、見えてきた、とても可愛い寝顔だ。
それにしても出会ったときに比べれば大きくなったなあ。
いまはもう140センチぐらいって言っていたっけ、小学6年生としては小さいのか大きいのか平均が分からないから、うん、とりあえず成長してくれているなって。
私なんかはただ老けていくだけだから羨ましい、だってどんどん格好良くなっていく。
……好きになってくれないかなあ、本当に奏くんしかいないんだよ私には。
小学生をそういう対象として見てしまう時点で人間として終わっているようなものだけど、一切気にせずに欲望全開でいれば変わるだろうか。
「あま……ね」
本気でびくぅ!? となったのは言うまでもなく。
いまはもう犯罪臭がすごいので、切り替えて自分も寝ることにした。
おやすみ、奏くん。
こっちから積極的にアピールなんてしないから警戒しないでいつまでもいてね。
来てくれれば私はちゃんと相手をするからさと内で呟いて寝ることに集中した。
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