第6話 真実
男の予想外の言葉に空は唖然とする。
「海ともう会えないってどういうことだよ!」
まるでこの男に妹が殺されたかのように、空は詰め寄る。
「静かにしろ」
男は空の口を手でふさぐ。
「私は『妹がここから出たら』と言ったんだ。妹はまだここを出てないだろう?
じゃあお前のすべきことは何だ?」
「・・・妹を出させない」
男は少し考え、
「それもいいだろう。だが、今度はお前が出ていく番になるぞ。逆に妹が残されるだけだ」
空はいい考えが思いつかない。
「じゃあどうすれば?」
真剣な眼差しで男を睨む。
「私はそれを伝えるためにここに来たんだ。妹を連れてここから逃げろ!」
「ここから?」
「あぁ、それしかない」
「逃げられるの?」
男は少し間を置き、首を振りながら、
「限りなく難しい。だがお前らが生き残るためにはそれしかない」
と言った。
「でもここでは今まで何不自由なく、やってきたよ。シスターたちも良くしてくれた。それがなんで急なことに」
突然の脱出を提案され、空は頭を抱える。
「ここが外の世界でなんと呼ばれているか知っているか?」
空は首を振る。
「世界でない世界だ。」
「どういうこと?」
空が男に尋ねる。
「ここは現実に作られたあってはならない世界なんだ。少年、少女を使ってあらゆる実験をしている。生まれたときから人間だけど人間ではない教育を施される。例えばお前らは文字と言うものをしらないし、時間と言うものも知らないだろう?知らなくていいことは決して教えられず、お前らが、この中での世界でしか生きられないように作られているんだ」
「何だよ、それ、意味わかんねーよ」
「だろうな。俺も外に出るまでは知らなかった。でもこれが現実だ。たとえばここは外では白いものが降り続けているだろう?お前らはきっとそれを『雪』だと教わってるだろう。だけどあれはお前らへの実験的なウイルスだ。小さいころから浴びせ続け、人間にどのような害がでるかを実験している」
「害?」
「あぁ、お前らには自覚的にはわからないだろうが、体に埋め込まれているデータチップから様々な変化を計測されている」
男は一方的に説明し続けたあと、懐からある物を取り出し、空に手渡した。
「なにこれ?」
空が男に尋ねる。
「これはスノードームだ。きれいに見えるだろう。だが今のこの現実世界ではお前と妹がこのスノードームの中の二人を表している。決して外に出られない世界で、科学実験の粉を浴び続ける」
空はスノードームを見つめ、少し黙って考えたあと、意を決したかのようにしゃべり始めた。
「信じたくないけど、きっとおじさんのいうことは本当なんだろう。何も知らないけど、それが本当だっていうのはなんとなくわかる」
「やるよ!これしか道がないなら。妹と逃げる」
「わかった。じゃあ俺が持ちうる情報を与える。お前も少しこの教会のことを教えてくれ。私がいたころと事情が少し違うだろう」
「わかった」
こうして出られない世界からの兄妹の脱出劇がはじまることとなった。
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