第3話 あともう一度寝ると

「ガンガンガン」


 また同じように目を覚ます音がなり、少年、少女は食堂へ降りる。


「ねぇ、お兄ちゃん、話があるの。」


 いつもは先に食堂に降りていて、ボロの椅子に座っている海が2階の階段の所に立って空に話しかけた。


「珍しいな。なんだよ。」


 少し驚いたような表情で、空は聞き返す。


 すると海は涙を目に浮かべて


「私、もうすぐここから出なきゃいけないんだってシスターに言われたの。」


「もうお兄ちゃんと会えなくなってしまうのかな?」


 突然の報告に、動揺した空は


「何言ってんだよ。出ていくときは一緒だろ。後で俺も一緒にシスターに聞いてあげるからさ」


 そんな軽い言葉を返したものの、海の顔がこわばり、


「ダメだよ。このことはお兄ちゃんにも誰にも言っちゃダメって言われたの。」


「シスターに言ったら私が言ったことがバレちゃう。」


 そんな怯える妹の表情を見て、空は


「わかった。食事の後、もう一度落ち着いてから話そう。ちょっと俺も考えてみる。

 それでいいか?」


 その問いかけに海は


「うん、わかった」


 とそっと頷いた。

 祈りを捧げ、食事の時間。

 

 空はさっき海が言ったことが頭に残り、中々食事が進まない。


 いつも一番に食べ終わる空をしりぞけ、


「やったー、一番だ」


 他の少年が先に食べ終える。


 その光景にシスターも少し驚いたような表情を見せる。


 その後も、続々と他の子が食べ終え、空が食べ終わったのは海のちょっと前だった。


 シスターが皆の完食を確認し、離席の許可を出した後、空に話しかけた。


「珍しいわね。あなたが一番じゃないなんて。どうかしたの?」


「いや、ちょっと体調がよくなくて。」


 そう返答する空に対して、シスターは


「じゃあちょっと休んでいたら?」


 と提案するも


「いや、大丈夫。」


 と空はいつも通りに振る舞おうとした。


 シスターから離れ、他の子どもたちと楽しく話す。


 その中でも、頭では全然違うことを考えていた。


 空と海はとにかくセットで行動をしている。


 とはいっても他の子どもたちも一緒に遊び、バラバラになることはほとんどないのだが、最後寝る前の時には、海の姿はなかった。


 そこできっとシスターに呼ばれ、さっきの話をされたのだろう。


『だが、なぜ海だけ?』


 その疑問が空の頭を駆け巡る。


 ずっと一緒にいた。いつまでも一緒にいられると思っていた。


 いつかここを出なきゃいけないことは他の子たちを見てわかっているけれども、


『ここを出る時は一緒だと思っていた』


 楽しく見せるように他の子と話していた空が、突如現れた別れに理解が追い付かず、その輪から離れたのを見て、海が駆け寄る。


「お兄ちゃん」


 不安そうな妹を見て、


「大丈夫だ。ちょっと気が動転している。でもここを出るのがいつなのかはわからないんだろう?」


 そう尋ねる空に


「うん、あと少しでここを出ていくことしか言われてない。」


 と海が答える。


 少し考えた空は


「まぁまだ少し時間はあるんだ。楽しくいこう。」


「でも良かったじゃないか。ここを出ていった子たちにはまた違う楽しい日々が待っているとシスターは言うしさ。」


「俺も後から追いかけるし、ここを出ても、また会えるさ」


「俺はお前が幸せにしていればそれでいい」


 別れを少し感じさせる空の言葉に、また涙がこぼれそうになりながら、海は


「うん。そうだね。また会えるよね。」


「あぁ」


 あの男が現れるまで、あとひと眠り。

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