第2話 あと二度寝ると

「ガンガンガン」

 何かを叩くような音と共に、シスターの声が響く。


「起きなさい」


 空や海も含め含め、子供たちはまだ眠そうに目をこすりながら、ベッドから降り、ドアを開け、それぞれ階段を下りていく。


 1階には食事を食べる長いテーブル席があるのだが、長辺に8つずつ、短辺に1つずつの席があり、それぞれ席が決まっている。


 たまに席替えがあるのだが、ここしばらくは空と海は短辺にある席に座っていた。


 『海はとても優しい妹である。』


 短辺に1つずつある席の内の片側の椅子だけは他の椅子と種類が違い、ガタついている古い椅子だ。


海は2階が寝部屋なので、1階の食堂には早く降りてこられるのだから、皆と『同じ』椅子に座ればいいのに、空が食堂に着くと、海はいつもボロい方の椅子に座っている。


『空はとても優しい兄である。』


ボロい椅子に座っている海を見るといつも席を変わってあげる。


「今日は私がここに座るよ」

 

か細い声で海が言う。


「いいんだって。俺が兄なんだからこっちの椅子で。ほら向こう側の席に行けよ」


 空がそう言うと、海は少し申し訳そうな顔をしながら、トボトボと兄の言うことを聞き、反対側の椅子へ向かっていく。


 そして皆と同じいい方の椅子に腰かけると、少し不服そうな顔で正面の空を見る。


 空はそれに気付いているのか、いないのか、時より、正面の海を気にするように目線を動かしながら、近くの席に座る少年たちとおしゃべりをしている。


「はい、静かに!」


 今日の最初の食事担当のシスターがテーブルの脇に立ち、少年少女が全て着席しているのを確認すると、一人ひとりに違うメニューの食事を持ってくる。


 出された食事は全て食べなければいけない。


 そして出された食事以上のものは食べてはいけない。


 それがこの食堂でのルールだ。


 なぜなのかは疑問にさえ出ることがない。


 生まれたときからここにいる彼らは食事とはそういうものだと教育されているから。


 空は食事のこの時間が好きだ。


 いつも「もう少し食べたいな」と思いつつも、ペロッと一番早く食事を平らげる。


 海は逆にこの食事の時間が苦手だ。


 小さい時には食事がなかなか食べられず、それを見かねた空が代わりに少し食べたところ、シスターに見つかり、二人ともこっぴどく怒られたことがあった。


 真っ先に食べ終わった空だったが、皆が食べ終わるまで席を立つことが許されない。


いつも最後になってしまう海が食べ終えると、シスターが、皆が食事を食べ終えたことを確認し、離席の許可を出す。


しかし、しばらくの間は教会から外には出られない。


出入口には内側から鍵がかけられており、出られないようになっている。


少年、少女たちは、しばらくの間、教会内でおしゃべりをしたりして過ごし、シスターの許可の合図を待って、やっと外に出ることができるようになるのだ。


 そして彼らはいつも同じ毎日を過ごす。


 白いものが降っている世界で。


 これは『ゆき』と言うそうだ。


 皆そういうふうにシスターに教えられる。


 この町では『ゆき』が降らない日はない。


 街を街灯と『ゆき』が照らす中で少年少女たちは一日中遊び続ける。


「きょうはもうお帰り」


 そう言ってシスターの一人が声をかけるまで。




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