第2話 居候、そして異変。(二)

「んで! どういう経緯でそういう関係になったんだっ?」


 男はテーブルに身を乗り出して、出会った時の形相をそのままに聞いてきた。どうやらアカリのお父さんのようだ。僕は4人テーブルの右端側の椅子に座らせられている。


「んもう、お父さんったらすーぐそういう話になる」


 向かい左側の椅子に座るのはお母さんであろう、黒髪ロングが清楚さを際立たせている。お母さんの方は普通なようだ。


「それで、キスはしたの? もしかしてもうしちゃってたり!?」


 前言撤回。普通じゃありませんねこれ。


「二人とも! そんなんじゃないって!」


 自分の両親の興奮を抑えにかかるアカリ。アカリが茶髪にショートだから、僕の世界で僕が考案した「髪型性格診断」はここではどうやらアテにならないようだ。


 その光景をみて弟君(?)はずっとケラケラ笑っている。

 家に入れて貰って言うのはあれだが、大丈夫かこの家族。


 ――結局アカリがちゃんと説明して、両親の興奮はやっと収まったようである。


「なんだ、森で遭難してたんか! そりゃあ災難だな! そういうことならぜひウチで過ごして行くといい! 俺はアカリの親父の天原あまはら 健一けんいちだ、よろしくなイカロス君!」


 威勢のいい優しいお父さんだな、頼もしいし頼りがいがありそうだ。


「私は母の霧音きりねです。お母さんって呼んでくれていいわよ?」

「おっ、なら俺もお父さんでいいぞ!」


 霧音きりねお母さんの挨拶にすぐさま割り込む健一けんいちお父さん。


「俺、柚鶴ゆづる! よろしくー」

 柚鶴ゆづる君はわんぱくさとクールチックな感じを合わせたような独特な雰囲気の子だな。


 ――アカリと話し合った結果、僕は「一人で日本に留学しに来た外国人の少年」という設定になった。生活する場所を探す途中で森に迷い込み、今に至るわけだ。尚、留学先の学校も決めてないで直球で来た設定だそうで。

 僕の世界にもにたような学校という施設はあったが、唐突に自国に来た外国人をを招くほどこの世界の世界的な交流が深まっているのがわかる。


「私は天原あまはら 明理アカリ! 改めてよろしくね!」


 ――ここから僕のこの世界での生活がスタートするのだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 僕はアカリの家族と一緒に朝食を食べて、空き部屋を紹介された。どうやら天原あまはら家はよく「ホームステイ」という外国人留学生を家に泊めるボランティアをしているらしく、こういう空き部屋を用意してあるのだそう。

 アカリの両親は仕事に向かい、ついでに僕の身元保証も済ませてくるそう。霧音きりねお母さん曰く、「私のコネならこれくらい楽ちん!」だそうで。


「それじゃ、私も学校行ってくるね!」


 僕はいってらっしゃいと送り出し、与えられた自室に戻りベッドに腰掛ける。

 この世界の常識は知らないが、休日にキャンプしてすぐ翌日学校に通うというのはとても元気なことなのだろう。


(うーん、昼食は用意してくれているらしいし、どうしようかな)


 一人取り残された虚しさを少し味わっていると、トントンと扉がノックされた。


(あれ、まだ誰かいるのか?)


 して、扉が開かれ現れたのは


柚鶴ゆづる君?」

「おう」


 なんだ、柚鶴ゆづるは学校に行ってないのか。別にこの世界でも義務ではないんだろうか。


柚鶴ゆづるくん、学校は?」


 そう尋ねると、彼の表情が曇り、目をそっぽに向けた。


「べっ、別に…… 優秀だから…… いいんだ」


(あ、これサボってるパターンやな)


「それより、にーちゃん」


 そんなことを考え呆けていたら、急に彼の眼差しが真剣なものになった。


「にーちゃん、現代の人じゃないでしょ」


(え、気づかれた⁉︎ まだ全然会ったばかりなのに)


 僕は思わず唾を飲み込む、冷や汗が滝のように体から湧き出すのがわかる。


(どうしよう…… とりあえず誤魔化すか)


「え、なんの話?」

「とぼけても無駄だよ」


(なんだこいつ…… さっきまでただのおちゃらけた弟君だと思っていたのに⁉︎)


「じゃあ質問するね、出身地はどこ?」


(しまった! この世界の国なんて今いる日本しか知らないぞ! どうする……)


「あ、えっと、その……」

「……わからないんだね」


(どうしよう、なにかやばそうな感じだ、僕を急に殺しにかかるとかないよな?)


「にーちゃん、イカロスって言ったよね」

「そっ、そうだけど」


 そう言うと彼はおもむろにポケットのスマホを取り出してなにか操作をしだした。


 そしてスマホの画面をおもむろに僕に突き出してこう言った。


「にーちゃん、この世界では神話になってるかもしれないんだ!」



「――へ?」

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