第2話 居候、そして異変。(一)

 光が暗かった視界を覆った。

 小鳥の囀りと共に僕は起き上がる。

 テントの縁から眩しく太陽が姿を現した。


(なんであんなものに触れようとしていたんだろうな)


 ――のことが鮮明に脳裏に浮かんでくる。もう少しで届きそうだった夢への昂りと、夢とするにはあまりにもおぞましかった現実。そして身体中を灼かれる苦痛を。


 今思えば、確かにあの時僕は死んだのだ。生物的にも燃え尽き、人間としても太陽を夢見ることはしたくなくなった。


「あ、イカロス君おはよー」

「おはよう」


 アカリは既に起きてキャンプの片付けをテキパキと進めている。既に何度もキャンプしている手つきだなあれは。


 僕はアカリに言われるまま片付けを手伝った。

 支度を終え、僕らは川沿いを下る。


「見て、これが私たちの街だよ!」


 茂っている木々の隙間から顕れたのは、自分のいた世界ではなかった光景。建物の形も様々で、高いものだと相当高さがあるだろう。あの直方体で建造できているのが不思議だ。

 驚くほど発展している未知の世界に、僕の心は脈打つ。


 しばらく下って街の端に来た辺りでアカリは足を止め、少し待とうと言った。何が来るのだろう。人運びの乗り物が来そうだな。すぐ横にあるおそらく看板であろう板を見るが、文字は読めない。


 そんなことを考えていると、道の右奥から何やら四角い物体が近づいて来た。それは何やら轟音を立てて思いのほか速い速度で、僕の眼前に止まった。


「これがバスです! さぁ乗って」


 これが人を運ぶ乗り物だという事にまず驚いた。そして中に入るととても整っている事にまた驚いた。


「私の分はタッチで、イカロス君は現金でほいっ」


 そう呟きながらアカリはスマホとやらを板にかざし、袋から何やら金属を取り出して箱に入れた。すると箱の隙間から紙が出てきて、それをアカリは取った。


(あれは硬貨か! この世界にも硬貨はあるんだな)


 そのまま僕は言われるままに席に座り、隣にアカリが座った。


「これは、人運びの乗り物なのか?」

「うん、バスって言うんだよ」


 バスか、それにしても何人乗れるんだろうか、ぱっと見ただけでも二十人は乗れるぞこれ。


 そしてバスの中におそらく操作してる人物からの呼びかけがされ、扉が閉ざされ進み出した。


 バスの中で、僕はアカリからこの世界の様々なことを教えて貰った。日常的な生活のこととか、一般的な常識とか。


 しばらく進んで、街の中心部に近い辺りで僕らはバスを降りた。そこからまたすこし歩いた先。


「ようこそ、ここが私のおうちです!」


 この世界のことをよく知らないからなんとも言い難いが、他の家と比べると遥かに大きい庭付きの建物だ。建物の形もすごい芸術的なセンスを感じさせる。


 僕は連れられるまま門を抜け、玄関に入る。


「ただいまーっ!」


 元気な声でアカリが声を出すと、中の部屋から僕らより少し小さい少年がひょっこりと出てきた。


「あ、ねーちゃんおかえ――」


 少年はそう言いかけたが、瞬間、僕を見て形相を変えた。冷静そうなキリッとした目つきが一瞬にして大きく見開いた。


 して少年はなにかあったかのように足早に奥の階段をどたどたと音を立てて登っていった。

 直後。


「ねーちゃんがオトコつれてきたぞーー!!」


 出てきた時の雰囲気には似つかないその雄叫びにも似た大声が響き渡る。


 そして数秒の間の後にさっきより大きな足音を立てて降りてきたのは、中肉中背を少し屈強にしたような髭を生やした男。

 そして男は僕を見て変な驚き顔になったままこう叫んだ。


「ほんとだぁーーーーーーーー!!」

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