第42話 (そ、そそそそ空くんに友達…………これは、夢?)
ユズが俺に言ったときを思い出しながら、震える声で言う。
ユズから言われたときは拍子抜けしたけど、これ結構緊張するんだな……。
今でも手足が震えている。はは、どんだけビビりなんだ俺は。こんなかっこ悪いところ、見られるだけで恥ずかしいな。
「ふふっ」
星川さんは、小さく笑った。彼女は笑うとき、少しだけ雰囲気が柔らかくなる。
本来の星川さんは、大人びてなどいないのかもしれない。
「い、いきなり笑うなよ……」
「ごめん。でも、なんだかいいな……って思って。本当に友達作ったことないのね?」
悪戯っぽく笑う星川さんを見て、少し、いや、かなり恥ずかしくなってしまう。
俺だって思うとも。友達になりたい相手にまるで告白するように「友達になってください」なんて、普通に考えたら変だと思う。
だけど、こうすることではっきりと自分の気持ちと、相手の気持ちを確かめることができる。
やっぱりこれ、告白っぽいよな……。
「こうやって友達を作る方法も、正解なのよね。むしろ友達の作り方に間違いなんてないか」
星川さんは俺の手を取り、握手をする。
あたりまえだけど、その手には体温を感じた。
あたたかくて、柔らかくて、やさしい手。それは、生身の人間の手だった。
よく考えたら俺、こうやって誰かに手を握られたこと、しばらくなかったんだな。あってもそれは、幸せだったころの両親と、俺を育ててくれた森子さんくらいだ。
「よろしくね。日向君」
不意にこぼれた星川さんの笑顔は、太陽よりも、何よりも輝いているように見えた。
彼女の過去は正直、称賛できるものではない。その気になれば暴走するクラスメイトを止めることができたはずだから。
だからこそなのだろうか。今の星川さんには、話に聞いた「クラスのリーダー」とか「いじめの中心人物」とか、そういうものを一切感じないのだ。彼女なりに、変わったのだと思う。
もちろん、許されるものではないし、俺もそんな過去の星川さんを認めるつもりはない。だけど今ここにいるのは、今の星川さんだ。
今こんなにもやわらかい表情を振りまけるのは、明らかに彼女が変わった証拠だ。
俺も過去の自分を塗り替えて、少しずつ変わっていきたい。
現実を拒んでばかりでは、前に進めるはずがない。
「ああ、よろしくな。星川さん」
俺は握りられた手を、強く握り返す。
「うっはー星川ちゃんの笑顔百万点! 視線を独り占めとかずるいぞ空! 俺を間に入れろ!」
うん。いい雰囲気をぶち壊すなよダイチ。
(空くんから静かな怒りを感じる……)
「それで星川さん、もう一つ、お願いしたいことがあるんだ」
「ええ、私にできることならぜひやらせて?」
そうして俺は、星川さんと共に、ユズを取り戻すための準備を始める。
――待ってろよ。ユズ。
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