第37話 (空くん、流石に可哀想だから後でダイチくんに土下座しようね)
「空、もう一度言ってみろ」
「は? だから、もうすぐ立夏さんって人がここに来るから、話の邪魔にならないようにしてくれって」
公園に来てすぐ、俺は暇そうなダイチと暇そうに話していた。
「なんだとぉっ⁉ もうすぐかわいい美少女が来るから、イチャイチャするために俺は席を外せだって⁉」
うん。一ミリもこいつと意思疎通できてないのがわかった。
そもそも邪魔にならなければいいだけで、席を外せだとか消えろだとか一言も言ってないんだがな。怒られる理由がわからん。
「空、お前は親友だと思っていた。違ったようだな。よぉーしウミ姉は俺がもらったああ!」
(なんでそうなるかな)
「まあ、ダイチが好きそうな美人系女子って感じはしないけどな……」
ダイチはウミ姉みたいな大人っぽい女子が好きっぽい。
井上さんは口調は荒々しいが、顔立ちはどちらかというと幼く見える。身長も星川さんと比べたら小さめだし、ウミ姉のようなお姉さん声でもない。
顔立ちだけで言えば、ハナと同じ分類に入るだろう。
「いやそれはないだろう! 俺は女子高生全般を愛しているからな!」
(ちょっと引く……)
奇遇だなウミ姉、俺も引いてる。だいぶ引いてる。
「ダイチ、大好きなウミ姉に引かれてるぞ」
「ああああああ待ってえ! 俺にとってはウミ姉が一番理想の女子高生だからー!」
ウミ姉って女子高生なのか……?
そういえばウミ姉の年齢は深く考えたことがなかったな。俺よりちょっと上なだけのイメージもあるし、二十歳過ぎてる大人にも感じ取れる。
実際自分の年齢ってどれくらいだと思ってるんだ?
(言いません。女子に年齢と体重を聞くと天罰がくだるよ)
「ねーねーダイチくん、私は?」
ハナは目を輝かせてダイチに聞いてくる。一体何を期待しているのだろうか。
「ハナちゃんは中学生って感じだよな! 小さくて可愛い子も、俺は大好きだ――ぜホッ⁉」
全力で地雷を踏んだダイチが、変な声を上げながらハナのグーパンを正面から受け取る。イマフレ同士の二人は殴り殴られが可能だ。俺がイマフレじゃなくてよかった。
「あっ! ごめんねダイチくん! ついやっちゃった……」
ハナはあわあわしながらダイチのもとへ駆け寄る。
こわ。無自覚で腹を殴りこむとかこわ。
ハナの「やっちゃった」が「殺っちゃった」に聞こえる。
ハナだけは本気で怒らせないようにしよう。下手したら夜中に毎日「私は高校生私は高校生私は高校生」とささやき続けられる呪いにかかるかもしれん。
「待ってくれ……ハナちゃん、ハナちゃんは小さいからこそいいんだ」
「なあーに? もういっかい言って?」
「ひっ」
顔面蒼白になったダイチは、ぱっと見気絶一歩手前くらいってところだ。
俺からは後ろ姿でハナの顔が見えないが、きっとそれはそれは恐ろしい顔をしているのだろう。身震いがする。
おかしいな……俺のときはあそこまでブチ切れないぞ……。
(相手が空くんだからじゃない?)
そ、そうなのか? 俺が相手だと本気で怒るまで行かない……?
(好きな人から小さくて可愛いなんて言われたら、いつもは怒る言葉でも、ちょっとだけ嬉しくなるのかもね)
ハ、ハナ……つまりハナは俺のことをそんなに……。
(もしくは日頃の空くんへの恨みをダイチくんにぶつけちゃったとか……うんそっちの方が納得できるかな。空くんいつもハナちゃんのこと怒らせちゃうし、殴りようがないからダイチくんにしか向けられないんだ。なるほどなるほど)
おいウミ姉、俺の幸せな気持ちを返してくれ。納得しちゃったじゃねーかこのやろう!
「空、あとは、まかせた…………ばたん」
ダイチは恐怖と、殴られた痛みから気絶、及び死亡してしまったようだ。
さようならダイチ。ありがとうダイチ。特に何かしてもらったとかはないけど一応お礼言っとく。
(空くん、人の心がないのね……)
ばたんと自分で言ってる時点で雑な扱いしていいと言ってるようなもんだろ?
「ダイチくん! どうしたの! ダイチくん!」
(あそこでダイチくんを揺さぶってるハナちゃんのことを見習ったらどうかな)
そもそも元凶だぞあいつ…………。
「ところで俺は何を任されたんだ」
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