第34話 (空くんには無理をしてほしくないよ。でも私は――)

   * * *


 行く当てもなくぶらぶらとしていた。

 ハナは何か言いたそうにしながらも、無言で俺の隣を歩いている。

(空くん、本当にこのまま終わっていいの? まだユズちゃんと、ちゃんと話をしてないのに)


「……いいんだよ。ユズも現れる気はないだろうし」


 気が付くと、学校に来ていた。

 今日は土曜日だが、部活をやっている生徒もいるので、校門自体は空いている。

 この校門の前で、ユズが泣いていたんだっけ。


『やっぱり、私……駄目だったんです。私なんか、誰も……っ』


 震えた声で泣いていたユズを思い出す。

 鮮明に覚えているのは、それが自分の想像で作った情景だからだろうか。

 じゃあ、ユズの感情は、偽物だったのか?

 いや、少なくとも俺にとっては、そうじゃなかった。そうじゃなかった……はずだ。


『私と友達になってください!』


 この一言を言うのにどれほどの勇気を出したのか。俺は知らない。


『空さん、明日から私、JK友達作ります! 今日は沢山お友達ができたので、自信がついてしまいましたっ』


 俺と違って、たくさんの友達を作りたいと願っていた彼女が、どうしてそこまで友達がほしかったのか、俺は知らない。


『私、空さんみたいなお友達ができて……うれしいです』


 身勝手に作り出して身勝手に消してしまった俺なんかを友達にして、なにがよかったんだよ。

 勇気を出したように見えた彼女の思い切った言葉も、友達ができたと喜ぶ彼女の微笑む姿も、何もかもが俺の想像で、妄想で、幻想だった。

 ユズに対しての罪悪感。自分に対しての嫌悪感。

 それに気づいてしまったから――もう一度ユズに会ったら、俺は話すことができないだろう。

 それに、どんなに思い出してもユズの姿は現れない。それほど俺はユズに会いたくないと考えているのだ。

 会って話して、その上でお別れするのが筋なんだろうが、それができない。

(試してみてできなかった結果なら、私は空くんに無理を言わないよ)


「……ありがとな。ウミ姉」


(でも、空くんは目を背けてることがあると思うんだ)

 目を背けてること? なんだよそれ。

(それは……正直私もよくわからないの。なんというか、何かが欠けてる気がして。ごめんね。こういうのは私が推測するべきだと思うんだけど)

 ウミ姉でもわからないってことは、俺自身が全く気が付いていない何かなんだろうな……。わからないふりをしているのでもなく、本当にわからないままでいるってことだ。


「そらくん……」


 すぐ隣を歩いていたハナが、いつもより元気のない声で、俺の名前を呼ぶ。


「あれ? なんて言おうとしたんだっけ……あはは」


 その表情は、いつもの純粋無垢とは真逆の、暗い表情だった。必死で笑顔を作っているように見えるが、不器用なその笑みは、笑顔とは言いようがないほどの、苦しい表情で。

 思えばハナは、俺に新しいイマフレができるたびに過剰なほど喜んでいたっけ。

 ウミ姉の時も、ダイチの時も。ユズの時も同じだった。

 あの時はユズがイマジナリーフレンドだと知らなかったわけだが、ハナは新しい友達として、ユズをすんなり受け入れて、ユズを迎え入れようとしていた。

 きっと久しぶりの新しい友達でうれしかったんだ。

 なのに俺は、ユズを消してしまった。


「ごめん……ハナ」


 俺とハナの間で再び、沈黙が続いた。

 ハナにはこんな顔、させたくなかったんだけどな……。


 どこに行けば、この気持ちは収まるのだろうか。

(難しいな。友達関係って)


「そうだな。……まあ、俺の場合自分自身の中で起こってることなんだけどさ」


(それでも、この関係は紛れもなく友達関係だよ)

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