第25話
* * *
「呆れる話でしょ」
一通り話し終えてから、星川さんはどこか遠くを見るような目で、呟いた。
俺と同じイマジナリーフレンドを持っていた少女が、自分の人格をイマジナリーフレンドに渡した、という話。
幼い頃の俺が、ハナに助けてもらったときの交代とは大きく違う、自分を捨てる行為。
イマジナリーフレンドを持つ人は、多重人格の障害を起こすこともあると、ネットで読んだことはある。
でも実際に、俺は幼い頃のアレ以来、一度もイマフレに人格が乗っ取られたことはない。
身体が乗っ取られたとしてもそれは、俺の意識がある中の範疇だ。
「雪菜は、私が殺したようなものなのよ。最後まで、謝れなかった。……たとえ謝っても、あの子はもう帰ってこないのだろうけど」
「……どうして、俺にその話をしたんだ」
彼女は……星川さんは、自分が犯した過ちを自ら他人に話したのだ。
今日会ったばかりの俺に。突然。
「せめてもの、償いよ」
星川さんの言葉は、冷たく、重く、教室内に響いた。
星川さんは俺を見て、雪菜さんと重ねたのだろう。俺を、雪菜さんのような運命にしたくない。そんなふうに思っているのかもしれない。
「ねえ日向君。私に何ができるとかではないけど、何かあるなら」
「――余計なお世話だよ。自分が過去のことを話したから、俺に事情を話せとでもいうのか?」
ああ、こんなの、ただの八つ当たりじゃないか。
でも俺は、立ち直れそうにないんだよ。
「できることなら、この身体を全部、あいつに渡したかったよ」
ユズは、俺が作り出した空想なんだ。
もうユズは、帰ってこないんだ。
その事実がずっと、頭から離れない。
「いいじゃないか。雪菜さん、辛い場所から解放されたんだろ。それの、何がいけないんだよ」
確かに、立夏さんには辛い役割かもしれない。一生、自分の友達の身体で過ごさなければいけないのだから。
でも、雪菜さんにとっては、それが正しい選択なんだと思った。
「確かにきっかけは星川さんかもしれない。でも、彼女の選択が、そのまま彼女の不幸にはならないだろ」
「何を言ってるの……?」
「もしかしたら雪菜さんは、自分よりも立夏さんに生きてほしかったのかもしれない。結果的に立夏さんが辛い目にあったけど、雪菜さんにとっては、それでよかったんじゃないか」
「つまりあなたは、今そういう状況だということね。違う。それは間違ってる。自分の身体は、自分が幸せになるために使うものよ。決して、他人に渡していいものじゃ」
「――わかりきったようなことを言うなよっ!」
俺は、自分に対しての怒りをぶつけるように、無意識のうちに大声で怒鳴っていた。
「だったら、このクラスで沢山の友達を作りたいと言ってたユズはどうなる! ユズは、俺なんかよりもずっと純粋で人間らしくて、誰よりもここいるべき人間なんだよ……!」
俺は、そんな人間を、「作って」しまったんだ。
叶いもしない希望を与えて、無責任な応援までして、結局、彼女をどん底まで陥れてしまった。
――そんな俺に、幸せになる権利なんてあるのかよ……。
「……話は終わりだ。星川さんごめん。これ以上は、もう無理だ」
このまま教室に居れば俺は、星川さんにまた余計なことを言ってしまいそうな気がして、その場から逃げ出すことしかできなかった。
星川さんは、追いかけてこなかった。
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