第20話 (空くん、うそ、だよね……?)
「そらくん、すっごく眠そうな顔してるね!」
朝の学校は、とてつもなく眠かった。
「なんというか、考え事しちゃってさ」
主にユズとハナがどうしたらノート以外でコミュニケーションが取れるか、とか、ユズとハナとタピオカ屋なんていいなーとか。
直接関われなくても、関わり方は色々あるはずだ。それを模索するのが楽しくなって、つい寝るのを忘れかけてしまった。
(やっぱり空くんは、ハナちゃんのために生きてるんだね)
否定はしない。ハナのためなら自分が寝る時間も惜しいくらいだ。よくよく考えてみろ。幼い頃の監禁生活がずっと続いていたとしたら、今の俺はどうなっていたか想像したくもない。流石にこの歳になってまで監禁されてる可能性は低いが。ない話でもない。
(私はその時のことは知らないけど、空くんの気持ちは痛いほどわかるよ。いつも話してくれてるからね)
「あーそらくん、教室通り過ぎてるよ!」
「あ、ああすまん。ありがとな、ハナ」
頭の中で会話すると現実でぼーっとする癖、なんとかしないとな……。
(もう十年は直ってないから、一生直らないんじゃないかな)
一生とか言うな!
俺は慌ててバックし、自分の教室へ……。
って、あれ?
「どうしたの? そらくん? 教室に入らないの?」
「あそこ、ユズの席だよな……?」
真ん中の列、俺の席の隣はユズの席だ。
そのユズの席に、見たこともない生徒が座って、手鏡を持ちながらメイクをしている。
キリっとした目に、まっすぐで整った黒髪。
タイプは違うが、クラスの中でもユズと一、二を争うほどの美少女だ。まあ、あんな美少女がクラスにいたら、普通気づくはずだし、別クラスだとは思うが。
見間違いじゃないよな? 俺の席の隣って黒髪ロングの美人系少女じゃなかったはずだ。
「空さん、おはようございます……!」
そう、こんなふうに守りたくなるような童顔少女だったはず。
「って、ユ、ユズ! お、おはよう」
思わずドア付近に立ち、ユズに教室内が見えないようにふさいでしまう。
昨日この教室であんなことがあった後だ。もしかしたら、何かしらの嫌がらせをしに、昨日の二人のどっちかの友達がユズの席に座っているのかもしれない。
とはいっても、決めつけはよくないしな。うーん……。
「空さん、入らないんですか?」
「あー、いや入る、入るよ。でも……あ、ユズ、ちょっと中庭行かないか」
「中庭、ですか?」
「そうだ。中庭ならハナたちとノートで会話、できるだろ。朝だから生徒も少ないし」
ここで時間を稼いで、ホームルーム前に戻ってくれば、きっと彼女も自分の教室に戻るだろう。何がしたいかわからないが、今のところ机に何かをしようとはしてないし。
(単に教室を間違えただけかもね)
そうだな、その可能性も――いやそれはいくら何でもポンコツすぎだろ!
とにかく、これ以上ユズの気持ちを揺るがす可能性のあるものは避けないと。
泣いてる顔、見たくないしな。
(ひゅーイケメン)
馬鹿にしてるだろ。
「――ねえ、そこで何をしてるの」
気迫に満ちた声が、後ろから聞こえた。いや、そう聞こえただけで実際はそんなにきつい言い方ではなかったが。状況が状況だ。
ユズの席に座って何してるんだ。と言う前に、相手から言われてしまった。
確かにこんなところでコソコソとしてたら、バレるよな。
俺は振り返って教室に入る。
ユズも入るが、自分の席に座った少女を見て、うつむいてしまった。昨日のことを思い出したんだろう。
嫌がらせでないことを願う。
「悪い。教室間違えたかと思って。あんたこそ、その席で何してるんだよ」
「何、って普通にメイクしてるだけよ。この学校、メイク禁制じゃないでしょ」
「いや、そうじゃなくて、ここ一組だぞ。お前このクラスじゃないだろ」
「あー、そういうこと。私、このクラスよ。入学前にインフルにかかってて、登校が遅れただけ」
……あれ? そうなのか?
このクラス、ユズ以外に初日から休みだった人いたっけ? クラスメイトの自己紹介をまともに聞いてなかったから覚えてねえ……。
(もっと興味持とうよ)
いや、あの時は失敗したショックで何も耳に入らなかったんだよ……。
休みだったのなら、席を間違えていても文句は言えないな。
「そこ、ユズの席だ。座席表見直したほうがいいぞ」
「は?」
「いや、は? じゃなくてだな……」
こいつ、話しわかってんのか?
美少女は、立ち上がって俺の目の前に立ち、人差し指で自分の胸を指す。
「誰かと勘違いでもしてるの?」
――それは突然に。
「私が……」
――俺の脳内へのしかかってきた。
「私が、星川ゆずなんだけど」
……は?
「いや、ユズはこいつだろ……?」
俺はすぐ隣のユズを指した。
目を丸くして、困惑した表情を浮かべているユズ。
ユズとは何もかも違う、目の前の気が強そうな美少女。
意味が分からない。このクラスに、同姓同名なんて……。
「そこに、誰かいるの?」
――違う。俺は信じない。
――今まで現実の人間だと思っていたユズが。
「ねえ、ここには、私とあなたしかいないでしょ?」
「……え」
――彼女が、イマジナリーフレンドだったなんて、俺は信じない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます