第19話 (空くんとハナちゃん、やっぱりお互いに……)
中学入学と同時に二階の空き部屋を片付けて手に入れた自分の部屋。必要なもの以外特に何もないシンプルでつまらない部屋だが、この家の中でハナと話せるのはここだけだから、一番落ち着く場所だ。
ここまでくればもう大丈夫なはず。
「おいハナ、どういうつもりだ」
「え? なにが?」
いつもなら天然っぽく、ぼけっとした顔で聞いてくるのだが、今のハナはニコニコしている。明らかに悪意でやっている。いつも天然のくせにたまに腹黒くなるのはなんなんだ。
「だから、俺が何かしたんだろ」
「そらくんから気づいてくれないといやだ」
ウミ姉、何かわかるか? ハナが不機嫌な理由。
(うーん。さあ?)
嘘だろ。全員の心が読めるウミ姉が知らないわけないだろ。
(うーんじゃあ、ここ最近の空くんの立場を、ハナちゃんに置き換えて考えてみたら?)
は? なんだそれ。
とりあえず言われた通り考えてみる。
・ハナに異性の友達ができる。
・ハナが自分を差し置いて異性の友達とデート。
・ハナが異性の友達にときめいて「この人かっこいい」とか言い出す。
うぉおおおおおおおおおハナ誰だそいつはあああああ⁉
俺という男がいながら? 別のヤツとイチャイチャだと⁉
いつもそらくんそらくん懐いてくるのに? 別に男がいるだと?
ぜーったい許さん!
……やばい。思わずダイチみたいな思考が入り込んできた。
(それが答えだね)
はい?
つまり、ハナには男ができたと? だから俺なんかとはお別れしようと、あんなイタズラを?
それはないだろ……流石にひどすぎるぞハナ。
そもそもその考えだと、俺のイマフレで男子はダイチだけだから……ダイチだと⁉
(いや、そうじゃなくて)
「そらくん、またウミ姉と話してるでしょ! もっとわたしと話してよっ」
「す、すまん」
ぷくーっと頬を膨らませるハナ。やっぱりかわいい。
「わたしねっ、そらくんと一緒に毎日登下校したかったの。約束もしたのに」
登下校?
あー、確か、入学式の日に言ってたな。毎日一緒に登下校しようって。
え? まさか、ハナが怒ってた理由って。
「嫉妬……なのか?」
やべ、つい口に出してしまった。
これ勘違いだったらめちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。
「え⁉ えーとっ、えーとっ、ち、違うよ?」
あ、これは当たりだ。
目を泳がせながら顔を赤くするハナ。わかりやすい反応で、非常に安心できる。
そうか、嫉妬、してくれたのか。
そう思うと、なんだかうれしいっていうか、こそばゆい気持ちになる。
よかった。ダイチとデキてなくて。
(明らかに両想いなのに、どうしてそらくんは告らないのかな。告っちゃえ)
そ、そそそそそんなの無理に決まってんだろ!
今の関係が一番いいんだよ。か、カレカノとか、まだ早すぎる!
それに、ハナの嫉妬は友達としての嫉妬かもしれないじゃん?
(ヘタレだね)
うるせえヘタレで悪いかっ。
「あー、ハナ」
「……なに?」
「明日から、一緒に登下校しような」
「うんっ。ぜったいだからね! ぜったい!」
口元が緩んでいるのを隠しながら、ハナは怒っている素振りを全面に出す。自分で「ぷいっ」とか言っている。
普段怒ることが少ないから、怒りなれてないのだろうか。
やっぱり俺の幼馴染は、最高にかわいい。
(ユズちゃんに浮気してる場合じゃないね)
浮気じゃねえかわいい女の子のことかわいいって言って何が悪い正直で良い奴だろ! というかそもそも付き合ってないからな?
(そう言う人が浮気常習犯になるわけだ)
……心の中だけだからセーフだ。
* * *
「はあ」
今日は色々と濃い一日だったな。
ユズの友達作り作戦が失敗して、そのまま学校を飛び出してタピオカ屋。夜はハナにのせいで森子さんにハナのことがバレそうになったし。
明日の学校、めちゃめちゃ気まずいじゃん。前の二人になんて言おう。ごめんなさい? いや、なんで俺が謝るんだ。あいつらがユズのこと無視してたんだから、あちらが謝ればいいだけの話だ。
「そらくん、ユズちゃんはどう?」
「なんだよいきなり。ハナ」
考え事をしながら布団に入って眠くなるのを待っていると、時々ハナやウミ姉が話しかけに来る。
俺が寂しいとか思ってるんだか、ハナたちが俺にかまちょしてくるだけなのかは知らんが。
今日はハナのようだ。ベットの横に正座して、横向きで寝ている俺の顔をじいっと見つめている。
まあいい。質問されたからには答えないとな。
……いや、答えようも何も、「どう?」って何がだよ。質問内容がざっくり過ぎだ。
「ユズちゃんとまたお話したいと思って! そらくんばっかりずるいよ?」
こいつは俺に嫉妬してるのか? ユズに嫉妬してるのか?
「わたし、もっとユズちゃんと仲良くなりたいんだ。イマフレと現実の女の子じゃ無理かなあ? ははは」
やさしく微笑むように、だけど少し寂しそうに笑う。
そうだよな。ハナは俺が作り出した友達意外とは普通に交流できない。世の中には自由にイマフレを作れる人がいるらしいが、俺はそんなに器用ではない。だから、ハナは寂しいんだ。
「またユズとノートで会話するか。明日」
「うん! うんうんうん!」
ベットに入ってきそうな勢いで身を乗り出す。もちろん、入ることはできないが。
近い近い近い。かわいいかわいいかわいい。
「そらくん、空想の人間と現実の人間って、友達になれると思う?」
…………なんだよ、今更。
「ユズと友達になっただろ。なれるんだよ。友達に」
「えへへ、そうだよね。ちょっと、自信なくしちゃって、変なこと聞いちゃった」
自信、か。
ノートの中でしか会話ができない。そんな空想の人間が、現実の人間と友達らしいことができるかと聞かれれば、それは、なんというか、難しい気がする。それでも、友達であることには変わりないはずだ。
ハナにはいつだって笑顔でいてほしい。
だから、俺がしっかりしなければいけないんだ。ハナの感情は俺がどこかで感じている感情でもあるのだから。
ユズと出会ってから、俺の中で少しずつ現実の人間と関わりたいという気持ちが強くなった気がする。ハナのためにも、現実を視野に入れていこう。
現実と関わったって、みんなは消えない。
ユズと出会ってから、それがわかったんだ。自信がついたんだ。
ハナのために現実と関わらなかった俺が、ハナのために現実に関わろうとするようになるなんて。
大した矛盾だな。
「大丈夫。俺たちは関わっていいんだ。現実の人間と」
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