第15話 (空くん、タピオカってだいぶ前にブーム去った気がするよ)
「やっぱり、私……駄目だったんです。私なんか、誰も……っ」
校門を出ると、ユズが座り込んですすり泣いていた。相当ショックだったのだろう。しばらく、俺は声をかけるべきか迷っていた。
「ユズ」
俺の声に反応して顔を見上げた彼女。
その表情の中には、昨日の放課後に見たような、キラキラとした笑顔はどこにもない。
目が赤く腫れている。涙を拭いた跡が、しっかりと残っている。
ユズが何度目を擦っても、頬に滴る雫を拭っても、瞳の奥からいくつもの水滴が流れているのが見える。
「情けないですよね……っ。あんなにやる気だったのに、今更怖くなって逃げだすなんて」
無理をして笑うユズは、見ていて見苦しいとさえ思えるような、切なくて、崩れそうで。
俺の心を蝕んだ。
俺は、そんな心の中を悟られないように、平常心を保ちながら言う。
「ユズ、一緒に女子高生になろう」
* * *
(あは、あはははっ!)
おい! いつまで笑ってるんだよ!
(いや、いくら気が動転していたとはいえ、さすがに「一緒に女子高生になろう」って言うなんてっ、おもしろすぎてっ! しかも真顔だものっ!)
そんなに笑う必要ないだろ! もうかれこれ二十分間もその笑い声を聞いてるんだが!
あの時はなんて声をかければいいかよくわからなくてだな……! ユズのやりたいことを一緒にやろうと思ったんだ。ちょっとした言葉の綾で、言うべき単語を選び間違えただけで! 人の失敗を笑いすぎだ!
(うんっうんっ、わかった笑わないようにするねあははっ)
……おい過去の俺、なんでウミ姉みたいな精神殺戮マシーンを作った? もう精神的に死すのだが。
「あの、空さん、ここは……」
ウミ姉に傷をえぐられながらも、俺とユズは目的地についた。
ユズは俺の変な発言に「ほぇ?」みたいな顔をしながらも、ウミ姉みたいに爆笑することもなく、俺についてきてくれた。
ユズみたいな心優しい人間に笑われた日には、その時が俺の命日だろう。
「女子高生って言ったら、タピオカだろ」
(何その雑解釈っ、そんなんじゃ女子高生にはなれないよっはは)
何か聞こえた気がしたが空耳だな。
学校から徒歩二十分、俺の通学路の近くに新しい店ができたのは、なんとなく知っていた。
少し前に流行ったにも関わらず、まだその流行は収まっていない。この町が流行を引きずるだけかもしれんが、このタピオカ専門店は結構繁盛しているようだ。
まあ、この時間帯は授業中というのもあって、空いてはいるが。
「それなです! タピオカ、気になってたんです! い、今から入るんですか……?」
「そうだ。一緒に入る相手が俺で悪いが、少しでもJK気分を味わえるだろ。今日は気晴らしの気分で飲んで、また明日から頑張ればいい」
(その言い方だと、お酒でも飲むみたいだね。おじさんだね)
脳内会話ってオンオフできないのかよ……。誰か教えてくれ。いや確かに今の言葉は俺が悪かったけどさ……。
(うーん、基本私が話したいと思ったときに話してるから、無理かなっ)
そっかそれなら仕方な――ウミ姉には聞いてねえ!
……気を取り直して。
「まあそういうわけだから、行こう。ユズは何がいい? 俺が頼むけど」
「いえ、自分で頼みますっ! 初タピオカなので、自分で買ってみたいです!」
「お、おう」
「星川ゆず、タピオカデビューしますっ!」
JK関係では興奮を抑えきれない様子で、背筋をピンと伸ばしながら大声で宣言する。
ユズの性格が少し分かってきた気がする。
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