第9話 魔獣狩り①
研磨機を使わせてください相談会の時に提案された、魔獣狩りにむけて、数日間の準備を要することになった。
おじいちゃんは、昔は名の知れたハンターだったので、狩りのプロで、装備も充実している。
ランスの魔石店で販売されている魔石は、おじいちゃんがハンター時代の人脈を通じて、仕入れている物がほとんどだ。脚の怪我でハンターを引退したので今は、魔力が少ない弱い魔獣しか倒せないそう。
狩りの装備から人脈、魔獣の倒し方までプロ級のおじいちゃんに比べて、わたしは、狩りをするための服もなければ剣もない。イチから準備を始めてやっと今日、魔獣狩りに行ける準備が整ったのだ。
今日の服装はいつも着ているワンピースではなく、ズボンだ。初めて足を通すズボンは、動きやすいし、腰のあたりが落ち着く履き心地だ。ズボンがとても気に入ったので、普段からズボンを履きたいと思う。次は、ズボンを普段着にさせてください相談会を開こうと思う。
そして私の武器は、小さなナイフだ。残念ながらわたしは魔獣を最初から最後まで1人で倒せるような、天才的な運動能力は持ち合わせていない。おじいちゃんが弱らせた魔獣にトドメを刺すことが今回の目標なので、今日はこれで十分。
「よし、じゃあ、町の近くの森に行こうか」
「うんっ!」
遠くない場所のため、今回は馬車の利用はない。ハンターは、たくさんの魔獣を倒すことが目的のときは、遠征団を組んで、馬に荷を引かせて行くらしい。何日間も家に帰らず旅をするなんて大変そうだけど、ちょっと行ってみたい。
わたしは、背中に槍を担いだおじいちゃんについて行く。こんなにも大きな槍を武器にするなんて、背が高くなくてはできまい。槍を振り回すにしても力がいりそうだし、今のおじいちゃんで大丈夫か少し心配。
「ところでツィエン、魔石の色は何色でもいいのか?」
「ううん。緑がいい」
出来ればはっきりとした濃い緑がいいのだが、魔力が弱い魔獣では、そんなに発色が良い魔石は手に入らない。でも、そこは妥協するしかないのだ。
そもそも魔石といっても、この世界で魔石商が販売することができるものは、大きく分けて3種類に分類される。
まず、最も一般的な魔石『魔獣石』。
魔力を持つ獣からできる魔石だ。魔獣を倒すと1匹の魔獣から1つの魔石がとれる。一般的な動物と違って魔獣は倒してしまうと、毛皮や骨、鱗は残らない。ただ、生きているうちに剥いだ毛皮や鱗、牙などはその魔獣を倒した後も消えずに手元に残るらしい。生きたまま皮を剥ぐなんて想像するだけでも痛い。
魔獣石の値段は、その石に込められている魔力の強さに比例して高くなる。そのため、子供でも倒せるような魔獣からとれる魔石は、価格的な価値は低いのだ。
赤い魔石だったら、それは火の属性を持っている証だ。弱い魔獣から出た赤い魔石であれば、売るよりも料理用の火として使う方が、はるかに実用的といえる。
ちなみに、魔獣石に宿る属性は魔石の色からだいたいの判別がつく。魔石が持つ属性を引き出すには、魔力を持っていることが条件だが、この世界の人間は魔力量に差はあれど、9割以上が魔力を持って生まれてくる。そのため、誰しもが日常的に魔石を使って生活しているといえるだろう。
次に、最も魔力含有値が低く、魔石商には在庫が少なめな『魂石』。
名前のとおり、これはわたしたち人間が死んだときに残る魔石だ。人間が死んだら肉体は残るが、その肉体を火葬すると、この魂石が1つの遺体から2つ出てくるらしい。
この世界では魂石を亡くなった人の形見や一家のお守りとして、手元に残す文化がある。ただ、魂石をアクセサリーに加工したりして手元に残すのは、貴族くらいなもので、魂石を売って、生活費に充てる方が一般的だ。
魂石のほとんどは、その人物の生前の瞳の色合いに似ると言われている。心の汚い人の魂石は濁っていて、石のようになるという迷信まである。
他の2つの魔石と違って、魂石は原石自体が丸く、もともと透き通っていることもあり、そのままの状態でコレクションしている貴族もいるとか。物が物だけに、魂石を店頭に陳列する店はない。
また、魂石はこの世界共通で、1万ジェム以下で売買してはいけない決まりになっている。
最後に、最も貴重で魔力含有値も高い『精霊石』。
精霊石に関しては、実際に見たことがないので、すべて聞いただけの情報だ。なんといってもその特徴は、魔獣石とは比べ物にならないほどの魔力含有値である。
魔力だけでなく、その輝きの美しさは格別で、握り拳大ともなれば王族レベルでないと目に掛かれないとまで言われている。もしも、魔力値・大きさ・輝き、この3要素がそろった精霊石を見つけることが出来たならば、巨万の富を得ることができる、とさえ言われているほど。
実際のところ平民が見つけることのできる精霊石は、爪ほどの大きさが限界だと言われている。貴族との繋がりが深い魔石商であれば、小さいサイズのものはそこそこ目にする機会もあるらしい。
そのほか、エーデルシュタインを構成する12カ国では、国石と呼ばれる各国それぞれの特徴を持った魔石が産出されるが、これは各国の王族が販売権を持つため、平民の経営する魔石商で売られることはまずない。
なんにせよ、平民が欲しい、と思ったときに手に入れることができる魔石は、魔獣石しかないのだ。
「緑の魔石となると、ウインドバードか。よし、もう少し森の奥に行ってみよう」
さすがは元ハンターだ。魔獣があまり出ない道でもわかるのか、道中獰猛な魔獣に出くわすこともなく、わたしたちは森の奥まで進むことができたのだった。
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