第2話 日常

 ヘルグリュン王国。そこは天候に恵まれ、農資源豊富な土地と朗らかな国民性が特徴の国。その北部に位置する町では今日も何気ない一日がはじまる。



 ぱちり。目を開けるとそこはいつもの風景。

 こてん、と首を横にむけるとそこには、くしゃっとよれた枕がひとつ。


「じいじ。もういない」


 じいじが早起きのときは、もうキラキラのとこに一人で行っているときだ。キラキラを独り占めされてしまう、と焦りながら木製のベッドに腹ばいになりながら慎重に降りる。

 ドアノブに一生懸命手を伸ばして、なんとか指先をひっかけてドアを開けると、その先にはテーブルに腰かけた金髪の男がいて、こちらをみて微笑む。


「ツィエン、おはよう。今日は晴れたよ」


 濃い金色の髪の男は目尻をさげる。金色の瞳はどことなく品があって、優しい。これがわたしのじいじだ。


「じいじ、おはよう」


 じいじにキラキラを独り占めされていなかったことにほっとして、わたしは気分がよかった。

 部屋の隅に立てかけられた鏡を覗き込むとそこには、緑がかった黒色の髪にうすグリーンの瞳のこどもが写る。これがわたしだ。じいじと比べてもなんだかボヤっとしている見た目はなんとなく好きではかった。じいじの瞳の方がきれいだと泣き喚いた記憶さえある。じいじと似てないって言われた時には、似れるものなら似たかったと思ったものだ。こどもだって、なんとなく言われた言葉を気にして不安になることなんていっぱいあるのだ。


 じいじのそばに行って、両手を広げれば、脇を抱えて椅子に座らせてもらえる。こうして私は食事にありつくのだ。テーブルに置かれたパンに手を伸ばして、じいじの目を見る。


「今日もお仕事?」


 もそり、とパンを頬張っていれば、じいじが、わたしのコップにミルクを注いでくれる。これがわたしの日常。いつも通りの朝だ。


「今日はお店は開かないよ」


「ふーん」


 今日はあのキラキラたちに会えないのか。そう思ったら、いつも通りの朝が急につまらなく感じられた。


「薪拾いに行かないとな」


 薪拾いか。じいじのお手伝いは嫌いじゃないけど、お店でお手伝いしないでいい子にしているだけ、の方が刺激的でとても楽しいのだ。だって、あのキラキラたちに囲まれていられるのだから。


「わたし、お店にいたい」


「ツィエン。駄目だよ。毎日お仕事していたら、じいじも疲れちゃうよ」


 わたしは疲れないもん。じいじはいつもそうやってすぐお休みしたがるのだ。わたしが大人で、じいじと同じお仕事ができるなら、毎日営業して、だいはんじょう大繁盛なのに。



「・・・子育てって、大変だ」



 不満そうにパンを頬張るわたしを見て、じいじがため息をついていたことなんて気づかない。子どもの見る世界はいつだって限定されているのだ。

  

 

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