第11話 またねのその後
午前0時を回った。
彼の車の助手席で、彼の手を握って街灯が照らす夜道を走っていた。
カーステレオから流れる恋愛ソングに耳を傾け、ハンドルを指で叩いてリズムを取る彼をずっと眺めていた。
「明日って仕事?」
「そうだよ。だから今日はすぐ帰らないと。」
彼は少し離れた場所に住んでいる。
会いたい時に会えない距離というのは、少なくとも不安を抱かせるには充分だった。
「そっか。」
絞り出した声も彼には届かず、私は大粒の涙をこぼした。
真っ直ぐ前を見て運転をする彼の言葉を思い出す。
『俺の知らない所で泣かないで。隣で泣いたらすぐに拭ってあげるから。』
だが、彼が私の涙に気づくのは数分後の事だった。
鼻を鳴らして合図を送ると、彼は横目で私を見て減速し、後ろの座席からティッシュ箱を取って私の膝に置いた。
「なんで泣いてるの?どうしたの?」
オロオロとした表情で私の顔を覗き込む彼の優しさが身に沁みる。
「今日バイバイしたら、次はいつ会えるんだろうって思ったら悲しくなったの。」
そう言って号泣する私の頭を、彼は優しく撫でた。
「またすぐに会えるよ。来週かな、2連休があるから、その2日間はずっと一緒だよ。」
彼は泣き止むまで私の頭を撫で、ぼんやりと明るい公道を走り抜けていく。
私の家に着いて、彼が少し休みたいと言ったので私の部屋に招き入れた。
彼はベッドに潜り込み、隣を叩いて「来て」と私を誘った。
私もベッドに入ると、彼はすかさず私の腰に手を回した。
「君の匂いが1番安心するよ。」
そう言って笑みを浮かべる彼を見て、心の底から愛しいと思った。
でもね、私はとても不安だよ。
会いたい時に会えないのはとても辛いの。
そんな事、思った所で言えるわけがない。私の自己満足で彼を困らせる訳には行かない。
実際、車で1時間半の距離を彼は仕事で疲れていても、天気がとても酷くても、次の日が休みであれば来てくれた。
もっと会いたい、もっと一緒にいたい。
こんな願いは彼を苦しめてしまう。だけど少しの時間抱き合うだけじゃ満足ができなかった。
もっと満たされたかった。
時間になり、彼は荷物をまとめて車に積む。
私も外に出て、彼を見送ろうとアウターを羽織った。
「またね。」
そう言って彼は運転席の窓から身を乗り出して、私のおでこにキスをした。
私はそれに、「またね」と言っておでこにキスを返す。
彼の車が見えなくなったあと、どうしようもなく寂しくなって家の駐車場で泣き崩れた。
寂しさを抑えるというのは、きっとお留守番をしている子供でも自分でできるものだろう。
いや、自分で乗り越えなければいけないものだと私は思う。
だけど、私の目から溢れるこの寂しさは貴方に拭ってほしかった。
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