第10話 1番になりたい
僕は昔からなんでも1番だった。
勉強もかけっこも習い事のサッカーだってコーチに1番だと言われた。
僕は女の子たちに1番かっこいいって言われるし、背だって1番高い。
そんな僕でも1番になれない事があった。
僕は、同じクラスの少しませた女の子が好きだった。
他の子は僕を見るとにこにこして話しかけて来るのに、彼女は僕と目が合ってもふいっと目を逸らすだけ。
最初は、なんだか彼女が気に入らなかった。
「今度の算数のテスト!対決しようぜ!」
いつだったか、僕はその子に勝負を申し込んだ。
でもその子は机に頬杖をついて、こちらを見上げると
「勝負とかくだらない。」
そう言ってまた目を逸らした。
その時、窓から吹いた風になびいた黒い艶のある長髪と、その子の横顔がすごく綺麗だった。
放課後の教室でその子は1人で掃除をしていた。
何かを諦めたような顔で、箒を持ってため息をついていた。
「ねぇ、なんで1人で掃除しているの?ほかの当番の子は?」
「あなたのせいよ。」
僕の問いかけに彼女はこちらを鋭い目で睨みつける。
「あなたが最近私にばっかりかまうから女の子から嫌われてるの!おかげで昨日も今日も1人でこの教室を掃除してるのよ!」
そう叫んで彼女は箒を床に叩きつけた。
「男子達は他の子が怖いからって理由をつけてさっさと帰っちゃうし!そんなに周りの目が気になるのかしら!あー、馬鹿らしい、あなたも早く帰らないと女の子から無視されちゃうわよ。毎日女の子に取り囲まれてさぞいい気分でしょうね!」
僕は怒ってまくし立てる彼女をずっと黙って見つめていた。
そして、彼女が叩きつけた箒を手に取って掃除を始めると、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「何をしてるの?」
「掃除だよ。」
「は?」
「僕のせいで1人で掃除をしてるなら、僕が手伝うよ。ごめん、今まで。」
そんな会話をしながら僕はゴミや塵を掃いていく。
彼女も黙って机に椅子をあげて、僕が掃除をしやすいように気を使ってくれていた。
掃除が終わった帰り道、ランドセルを背負って一緒に校門を出た。
「あんた、私に優しくして何がしたいの?」
「何がって、僕は君と仲良くなりたいだけだよ。」
少し震えた声で返すと、彼女はまたこちらを睨んで、走って帰ってしまった。
後日、学校で作文を書くことになった。お題は「なりたいもの」というものだった。
僕はすぐさま書きあげ、発表の時間になるとすぐ指名された。
僕は1番元気よく書いた作文を読み上げた。
「僕のなりたいもの。僕はなんでも1番です。勉強も運動も、サッカーも、名簿も、身長も1番です。でも、僕が本当に1番になりたいのは、このクラスの女の子です。黒くて長い髪で、顔が可愛くて、その子は僕の中で1番の女の子です。この前その子が教室を1人で掃除している時、僕はその子に怒られてしまいました。きっと、僕はその子の1番嫌いな人になってしまったと思います。だから、僕はその子に1番優しくしてあげて1番話しかけて、1番仲良くなりたいです。」
発表が終わって、彼女を見るとその子はすごく怖い顔をしていた。
授業が終わると、彼女が真っ先に僕の元へ来た。
バチン!!
彼女が僕の頬を叩いた音が教室中に響いた。
「あんたふざけてんの!!あんなふざけた作文書いて!恥ずかしいにも程があるわよ!!あんたなんかこの世で1番大っっ嫌い!!!!」
騒ぎを聞きつけた。先生が彼女をなだめて保健室に行こうと促していた。
彼女は余程恥ずかしかったのか、涙を袖口で拭きながら教室を出ていったのを覚えている。
こうして、僕の初恋は終わってしまった。
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