第9話 チーター(cheetah)と詐欺師(cheater)
私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。
異文明の遺物解析をする者――、
「旧日本にチーターっていたのかしら」
私は友人のジェーン・リン・ケイシーに向かって話かける。
ジェーンは不思議な顔をして私を見た。
「動物園があったならチーターぐらいいたんじゃない?」
ジェーンは「旧ニューヨークシティにもあったんだし」と付け加えた。
「違うわよ。野生でよ」
「野ぁ生ぃ?」
私の思わぬ反応ジェーンの声量が上がった。
「データベースで2000年代前半のインターネット記録を見ていたのだけど、「チーターに遭遇した」ってあるのよ」
私は「ほら」とジェーンに見せるが、「日本語は分からないわよ」と一蹴されてしまった。
しかし、そこには「チーターに遭遇した」と書かれている。
「チーターって絶滅した動物だけど、確かアフリカ大陸の動物よね」
「そうよ。私が担当している旧コンゴ共和国の周辺に分布していたらしいわ」
資料と化石が見つかった時は一時期騒ぎとなったのだ。
「じゃあ、旧日本で野生としているわけないか」
「動物園にいたって資料があれば、動物園から脱走したとかじゃない?」
脱走か。それなら遭遇する可能性がある。
「そうかもしれないわね。けどチーターって肉食動物よね?遭遇したら結構怖いと思うんだけど」
「そうね。人の身長ぐらいあって、220ヤードを7秒で走るって記録が残っているわ」
それを聞いて私の顔が青ざめる。
「それは遭遇したら死を覚悟するしかないじゃない!何呑気にインターネットに書き込んでいるのよ!」
出会ったら最期、すぐに捕食されてしまうだろう。
それを考えたら叫ぶしかなかった。
「動物園の飼いならしたチーターならそこまで速くないかもしれないわよ」
ジェーンは肩をすくめて首を振るが、それでも怖いものは怖い。
「良い、ジェーン?猛スピードで突っ込んで来る車と普通のスピードで突っ込んで来る車、どっちが怖い?」
その質問にジェーンは「あー」と考え込んだ後に「どっちもね」と答えた。
「そんな状況で呑気に書き込んでいるのはおかしいのよ」
私は手をひらひらと振った後、“チーター”で検索をかけた。
他にも目撃情報が無いか見てみたかったのだ。
「ねぇ、ジェーン。本当に旧日本にチーターって野生でいないのよね」
改めて聞く。
「いないはずよ」
ジェーンの言葉と裏腹に検索の結果、恐ろしい件数がヒットした。
「ねぇ……「チーターがいた。最悪」とか「チーター滅べばいいのに」って結構な数があるけど本当に脱走なの?」
旧日本人が「滅べばいいのに」なんて言うのだから、嫌われているのだろう。
既にチーターは滅んでいるのだから、今の世界は旧日本人にとって良い世界なのかもしれない。
「何でチーターと遭遇しているのに皆呑気なのよ。旧日本人はチーターと出会うのが普通なの?」
旧日本で探索をしている探索者もいるので、生き残りのチーターと出会わない事を祈るばかりだ。
「そんなにチーターと出会う事なんてあるかしら……」
ジェーンは眉間に皺を寄せる。
「あっ!“チーターと遭遇”ってもしかしたらCheater(詐欺師)の事かもしれないわ」
「あぁ!それなら呑気な反応もわかるわね」
いくら旧日本人が平和慣れしていたからとしても肉食動物に襲われる状況下でのんびりしないだろう。
詐欺師なら肉食動物ではないので吞気に書き込んでいられる。
まぁ、危機感は持って欲しいとは思うけど。
「どの時代も詐欺師はいるものね」
商売があれば詐欺師も出て来るのだろう。
そんな世界の理に嫌気をさす。
「……ねぇ。詐欺師って見た目でわかる?」
「え!?」
ジェーンは素っ頓狂な声を出した後に息を吞んだ。
詐欺師に遭遇したらと考えていたが、重要な部分に気が付いた。
詐欺師は見た目では分からない。
もし詐欺師が見た目で分かったら詐欺行為なんて出来るはずがない。
「やっぱり肉食動物のチーターって事は無いわよね?」
「まさか!」
ジェーンと私は顔を見合わせて苦い顔をする。
「「旧日本ならあり得ると思ってしまうのが怖い!!」」
解析が進むにつれ、変な国だとわかっていくので、何があるか分からなかった。
時間が経ってからゲームの事だと知って笑い合った。
「けど、何で表記が同じなのよ!」
「違うものを同じ表記だと混乱するわね」
ジェーンはそう言って慰めてくれたが、旧日本人がどうやって判断しているかがわからない。
「チーターとチーターって何よ……」
旧日本人はよく混乱しなかったものだ。
私なら混乱する自信がある。
「やっぱり解析すればするほど変な国だとわかるわね」
ジェーンは他人事のように笑っている。
解析する私の立場になって欲しい。
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