第8話 桃太郎と豆
私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。
異文明の遺物解析をする者――、
「神話や昔話って面白いわよね」
友人のジェーン・リン・ケイシーがデータベースを更新しながら話かけて来た。
「そうね。文化として様々な言い伝えがあるので考古学的にも良い文献になるわね」
「今アフリカ大陸でアフリカ神話とかも出てね。それの解析をしているんだけど、旧日本の神話とかどうなの?」
それでジェーンはアフリカ神話の解析でデータベースを更新しているようだ。
神話か。
「旧日本人は無宗教だったって話があるわ」
「はぁ?宗教無しじゃ規律とかの教えはどうするのよ」
ジェーンは一驚し、思わずデータベースからこちらに目を向けた。
「本当よ。正確には違うらしいのだけど。宗教に入らず、世界トップレベルの規律に厳しい国だったという話だわ」
「それは話を盛りすぎよ」
ジェーンは嘘だと
「宗教的な神話より、おとぎ話から規律の教えなどを覚えるのよ」
「神話よりも昔話タイプなのね。そのおとぎ話が宗教にならなかったのは不思議ね」
宗教であればそれが信仰となり、地に居つきやすくなる。
なのに、おとぎ話という枠組みで終わった。
「旧日本人は宗教に固執しない宗教だったとも言われているわ」
凄くあやふやな存在をあやふやなまま受け入れるという感じだ。
穏和や温厚な種族であったというべきか。
何というべきか。
「異端すぎるわよ。旧日本人は!じゃあ、そのおとぎ話も残っていたりするの?」
不可解な文化に半ば逆上しながらもジェーンは聞いてくる。
興味が無い訳ではないのだろう。
「そうね。旧日本人だれもが知っていたとされるものがあるわね」
私は桃太郎の物語を話してみた。
桃の実から生まれた男子“桃太郎”が、お爺さんお婆さんから
「――めでたしめでたし」
「やはり独特ね。それにしても、何で雉だけ種類が確定しているのかが気になるわね」
「確かにね。犬と猿は種類がハッキリしていなかったのかもしれないわ」
「なら“鳥”でも良かった気もするわ。何か秘密でもあるんじゃない?鬼の財宝の
「コミックの読みすぎよ」
秘密があったとしても旧日本人によって発掘されているかもしれない。
私はジェーンの話を一蹴した。
「この鬼って存在が旧日本のおとぎ話に結構出てくるわ」
ジェーンは「へぇ」と首肯した。
「文化としても二月に鬼を追い払う“節分”があったらしいわ」
「どんな文化?刀を振り回すの?」
旧日本の“刀”は名前こそ知られているが、ちゃんとした製法は未だ発見されていない。
試行錯誤でそれらしいものは作れているが、簡単に折れてしまう。
「刀は振るわずに豆を
「え?旧日本って銃社会じゃないわよね」
ジェーンの頭には豆が弾丸となって鬼を撃つイメージがよぎったのだろう。
私も最初はジェーンと同じ考えだったもの。
旧日本の“鳩が豆鉄砲を食ったよう”という表現が先にあったから、豆の銃社会かと思ったわ。
「違うわよ。豆を手で投げるのよ」
「それで鬼を追い払えるの?」
私は手で投げるジェスチャーをする。
ジェーンはデータベースの中にある大豆の写真を見ては首を傾げた。
「わからないけど、鬼の弱点が豆なのかもしれないわ」
豆に弱いなんて中々いないだろう。
けれど、私はそう答えるしかなかった。
「じゃあ、桃太郎も武器は豆だったんじゃないかしら」
ジェーンはふと思い出したように言った。
一瞬「えぇ」と思ったが、おとぎ話なのでそういう可能性も出て来た。
「節分では
「魚も嫌いなの?子どもね」
私は「違うわよ」と手のひらを振る。
「
「アンチョビも食べられないじゃない」
ルイーザ先生がレシピ解析したアンチョビは保存食として出回っている。
それを勿体ないと言うかのようにジェーンは嘆いた。
「旧日本の大豆食は幅広かったらしいわね」
ジェーンは旧日本の知識を私から聞いているので、幅広く知っている。
そんな彼女は旧日本の大豆食に興味があった。
「そうね。納豆や醤油なんてあったらしいわね」
納豆も醤油も復元出来ていない。
それに納豆は“腐った豆”と書かれていたので復元しようと思う解析者がいないのだ。
「もしかしたら、桃太郎は納豆を撒いて武器にしたんじゃないかしら」
私の後ろで何か電撃のようなものが走った気がした。
「そうね。鬼は
私とジェーンはハイタッチをする。
「仮説としてデータベースに入れておくわ。勿論ジェーンの名前でね」
桃太郎の伝説にジェーン説が入った瞬間となる。
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