第7話 GOKUDO
私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。
異文明の遺物解析をする者――、
「オーカ!良かったわよ」
友人のジェーン・リン・ケイシーが家に帰って来たと思ったら、私に喜びの声を上げた。
「映画“極道-GOKUDO-”よ!」
ある日、師であるルイーザ・フォン・コルツ先生に旧日本にあった映画を翻訳解析しないかと言われた。
私なんかがやって良いものか――という思いはあった。
けれど、ジェーンに背中を押されてやってみることにしたのだ。
その解析が終了し、最近一般公開されたのだ。
ジェーンはそれを観て来たようだ。
「旧日本の映画は驚くほどの気迫あるシーンと、静かな恐怖が独特ね」
「そうね。やり取りや言い回しが難しい所もあったわ」
いざ解析してみると意味がわからない部分があったりして大変だった。
「しかし、旧日本にもマフィアがいたのね」
世界各国にマフィアはいたという情報も文明が滅んだこの世界では重要だ。
「解析して分かったけど、旧日本のマフィア――極道はダークヒーローっぽいのよ。忍者もそうだけれど、正義のヒーローみたいなものより少し影が見えるのも特徴ね」
パッと明るい感じのものはテレビに多かった。
「面白いわね。他に、何か裏話は無いの?」
ジェーンはソファーに座って催促して来た。
「そうね……実は、タイトルがGOKUDOだと気付いたのは終了間際だったわ。KYOKUDOだと思ってたの」
「全然印象が違うわね」
私はデータベースを開いてジェーンに文字を見せる。
「“極”という漢字は電極などのKYOKUという読みと、極悪などのGOKUという読み方があるのよ」
遺物から電極を見つけたり、修理したりする事が多いからGOKUだとは思っていなかった。
一通り解析し終わって本編を観た時に気付いたのだ。
「漢字って旧中国と旧日本じゃ違うんでしょ?厄介すぎるわね」
ジェーンは嫌そうな顔で漢字の表を見ている。
「何となくの意味はわかるようになるけど、発音も違うし、旧日本特有の漢字もあるのよ」
「よく解析出来るわね」
実際映画を解析し、翻訳するのは大変だった。
文化が違いすぎた。
「面白い話で言ったら、途中でノイズみたいな音があったでしょ」
「あったわね。ジー、ジーっていうノイズ。心境的な表現だと思ったけど」
「あれね、旧日本にいた蝉って虫の鳴き声よ」
ジェーンは「えっ!?」と思わずソファーから立ち上がった。
「旧日本の夏にはそこら中にいるらしいわ。今でもいるかもしれないわね」
「あんな大きな声で鳴く虫がいるなんて、ずっとノイズだと思っていたわ」
「解析書やデータベースには載せてあるわ」
データベースを開いてジェーンに見せると「本当だ」と呟いた。
「因みに、蝉は美味しいらしいわ」
「えぇー。旧日本人は何でも食べるのね」
「川沿いに“蝉を食べないで”という看板が発見されていたわ」
そこまでして食べられていたのだから、美味なのだろう。
けど、毒の有無や食べ方は分からない。
わざわざ旧日本まで行って蝉を食べる人はいないだろう。
いたら結構な変人である。
「映画で小指を切るシーンがあったけど、本当にあったの?」
ジェーンは手刀で小指を切るシーンを真似していた。
「本当……らしいわ」
身体を震わせるジェスチャーをする。
「けれど、不可解な点も多いのよ」
映画を解析している中で、他の解析も同時進行でやっていた。
だからこそ、意味の分からない場面に直前してしまった。
「小指が無くなると、力の入れ具合が変わるらしいわ。お医者様に聞いたの」
力の入りが悪くなるんじゃないかと言われた。
「それで、ケジメと呼ばれるのね」
ジェーンは納得したようだ。
「けど、旧日本文化の“指切り”を解析していたら、子供たちがやる回数が多いらしいわ」
「え!?子供たちが指を斬るの!?」
納得からの驚愕。そういうリアクションをとってしまうのも無理はない。
「映画には無いから良かったわ」
「しかも、指切って、握り拳で一万回殴って、針千本呑ますらしいわ」
「凄まじい暴力ね。映画の暴力シーンも凄かったけど」
子供たちが指切りをするなんて恐ろしい国だ。
「けど、腹切りは腹を十文字に割いたりといった過激な方法もあったらしいから……」
「旧日本は結構残虐ね」
大人が大人相手にやるならまだ分かる。
けれど、針千本呑ますまでやるなんて凄い処刑だ。
ケジメの話で済まない。
「映画で良かったわ」
「本当にそうね」
その後ジェーンは映画の感想を思う存分話した。
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