番外編 紅葉と銀杏

 私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。

 異文明の遺物解析をする者――、Anolystアナリストだ。


「オーカってよくこんなのを翻訳できるわね」

 私の隣で日本語を英語に翻訳している所を友人のジェーン・リン・ケイシーが見て言った。

「確かに。ジェーンが言いたい気持ちはわかるわ。私もまだ翻訳出来ていない部分があるもの」

 翻訳をしていて何度挫けそうになったことか。

 もう数えるのは辞めた。

「オーカが日本語を理解出来ていないなんて、旧日本人は相当クレイジーね」

 ジェーンは笑いながらコーヒーを淹れた。

「本当だわ。漢字の元は旧中国にあったらしいけど、旧日本で生まれた漢字も多いしね」

 ジェーンは「へぇ」とカップに口を付けた。


「漢字で思い出したけど、これを見てよ」

 私はデータベースにある漢字“紅葉”をジェーンに向かって見せた。

「これ、“こうよう”って字なんだけど、意味が冬前に葉が色ずく事なのよ」

「嗚呼、アレね。“Autumn leaves秋の葉”ね」

 ジェーンが頷きながら理解を示した。

「そう!けど違う読み方があって、“もみじ”って言うがあるのよ」

「意味は?同じ?」

 ジェーンの言葉に私は首を横に振って否定した。

「“もみじ”は“Maple”を指すのよ」

「“Maple”って甘いシロップが取れるヤツよね?」

 私は頷いた。

 数は出回っていないが、メープルシロップは確認されている。

「あれも“こうよう”するらしいわ。それでこの字なのよ」

「読み方が違うのに?文章だったらどうやって判断するのよ」

 私は肩をすくめた。

「旧日本人は相手の心を読める種族だったのかもしれないわ」

「それじゃあクレイジーな事をするのも頷けるわ」

 ジェーンは私のジョークにノッてくれた。


「あと、“銀杏”も見て欲しいわ」

 データベースで“銀杏”という漢字を見せた。

「これは?」

「“いちょう”と言って、“Ginkgo”の事よ」

「この流れだったら、別の意味もあるのよね」

 私はジェーンの言葉に何とも言えない顔をした。

「これは同じと言えば同じなんだけど、“ぎんなん”と読んで“Ginkgo nut”も表すわ」

「エエ!?何で同じにしたのよ」

 ジェーンは驚愕を隠せないでいた。

「旧日本人は“Ginkgo nut”も食べるらしいのに同じ漢字にしたのよ」

「チェリーとチェリーブロッサムを同じにしたって事よね」

 ジェーンは呆れかえっている。

「チェリーを食べるのとチェリーブロッサムを食べるのは意味が全然違うじゃない」

 その後にジェーンは「チェリーブロッサムは食べ物じゃないけどね」と付け足した。が、私は否定した。

「旧日本人はチェリーブロッサムを食べていたわ」

「それは花!」

 ジェーンは旧日本を学んだ事で旧日本人ジョークを言って笑った。

「やるわね」


「オーカって旧日本人っぽい名前なんだっけ」

 笑いあった後、桜の話から思い出したようで、そんな話題を振ってきた。

「そうらしいわ。パパが旧日本に探索へ行った時に咲き誇るチェリーブロッサムを見て圧倒されたらしいわ」

 それで「桜の花」で「オーカ」って名前になった。

「一度は旧日本へ行ってみたいわね」

「あら、“こうよう”?“もみじ”?“いちょう”?“ぎんなん”?」

「チェリーもチェリーブロッサムも良いわね」

「全部は無理よ」

 また二人して笑いあった。

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