第5話 メロンとスイカ
私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。
異文明の遺物解析をする者――、
「ジャパニーズブレッドって色々あるのね」
データベースを見ながら様々な種類のパンを解析していた。
「旧日本発祥のブレッド?」
友人のジェーン・リン・ケイシーがカップに口をつけながら私の言葉に反応した。
「そう。画像は無いんだけど、種類や材料までは解析済みなの」
作り方も翻訳すれば分かってくるだろう。
「どんなのがあるの?」
「そうねぇ。旧日本の代表的な甘味“餡”を使った“あんぱん”やジャムが入った“ジャムパン”なんかもあるわ」
「へぇ。旧日本では色々入れて食べていたのね」
そうらしい。
「他にも“クリームパン”や“カレーパン”もあるわ」
「出たわねカリー」
ジェーンはニヤリと笑った。
「メロンパンもあるわ」
「クリームならわかるけど、メロンとブレッドを合わせるなんて凄いわね」
まだ解析途中だけど甘みのあるメロンを組み合わせるのは凄く豪華な食べ物だと思う。
「流石に今の時代には無理ね」
メロンは栽培可能だが、高級品しか出回らない。
その代わり、
スイカなら育てやすく、水分補給にもなる。
「そういえば旧日本ではスイカで通勤通学をしていたって聞いたわね」
スイカで思い出した事を口にした。
「スイカで?確か、シンデレラって寓話ではカボチャを馬車にしたって言うけど……おとぎ話よね」
旧アメリカの大手アニメーション制作会社が作っていたと聞いたことがある。
「インターネット記録では“スイカ落とした”とかあったから、おとぎ話かまだわからないのよ。しかもスイカで商品を購入も出来たそうよ」
「旧日本の通貨はスイカだったの?」
「いや、当時は“円”よ。スイカとは関係ないはずよ」
それにスイカを落としたら割れて使えないんじゃないかしら。
品種で“小玉スイカ”ってものがあったらしいけど、スイカなんて持ち歩くかしら。
疑問だらけで「おとぎ話だ」と言ってしまった方が楽である。
「旧日本はわからない事だらけね」
ジェーンは肩をすくめた。
「旧日本人は何でも甘くするらしいわ」
「甘く?なら旧アメリカ人も甘いものが好きだったわよ」
甘味は古今東西世界共通で好きなのだろう。
「品種改良の話よ。果物や野菜まで甘くして全てがフルーツのようだったらしいわ」
「それは凄いわね。じゃあメロンもカップケーキのようだったのかしら」
今あるカップケーキは旧アメリカにあったものより甘さ控えめだと思うが、メロンもカップケーキ並みだったかもしれない。
「果物以外で――トマトも甘かったらしいわ」
その言葉を聞いてジェーンの顔がこっちに向いた。
「それじゃあピザが甘くなっちゃうじゃない。ペパロニとの相性が気になるわ」
確かに。ピザがお菓子になってしまう。
スイカに塩をかけて食べていた旧日本人は、甘いトマトに塩気のあるペパロニで食べていたのだろうか。
「美味しいのかしらね」
私とジェーンは首を傾げた。
「ふぅ。メロンパンの材料だけは解析完了」
カレーパンとクリームパンは作り方まで解析が完了している。
クリームパンはグローブ型に切り込みを入れるらしい。
それは中身が膨らまないようにするためだとか。
こういう食文化や職人の技などは解析が進んでからわかる事が多い。
遺物解析による食の復元は民間にとってウケが良い。
すぐに試される事が多いので、食卓に並ぶスピードが速い。
「強力粉、砂糖、塩、ドライイースト?これは酵母ね……」
メロンパンの材料を呟きながらデータベースに打ち込んでいく。
「クッキー生地?薄力粉、砂糖……??ねぇ、ジェーン。これノイズが入っているかもしれないわ」
遺物にはノイズが入る場合がある。
旧日本の場合は保存状態が良いのでノイズが入る事が少ないが、旧コンゴ共和国の遺物はノイズが多かったらしい。
「珍しいわね。旧インドや旧コンゴ共和国なら多いのだけれど」
私より場数を踏んでいるジェーンの方がノイズに対して慣れている。
ジェーンが私のデータベースを見てノイズ確認を行う。
「ん?オーカ、これ合っているわよ。他の“メロンパンの材料”とほぼ同じだわ」
他にアップロードされているメロンパンの材料と見比べたのだろう。
彼女が日本語を知らないとしても文字列などから検証が出来る。
「けどジェーン、クッキーを作るんじゃないわ。それに材料にメロンが入ってないもの」
材料に“メロン”の文字が見当たらない。
メロンを包むパンだと思っていたのだが。
「クッキー生地はどのレシピにも入っているわね。メロンがどれを指すかわからないけど、メロンは入るものだという前提なんじゃない?」
ならメロンは適量なのだろうか。
それならそう書かれているはず。
「流石にメロンパンの中にメロンが入っていないわけ……ないわよね」
「それは可笑しいわよ。チェリーパイにチェリーを入れないようなものよ」
「そうよね。旧日本人もそこまでクレイジーじゃないわよね。やっぱりノイズね」
二人で笑いあった。
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