第4話 サザエと壺
私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。
異文明の遺物解析をする者――、
「――で、貴女は何をやっているのよ」
友人であるジェーン・リン・ケイシーが帰って来て私の行動を見て言った。
「おかえりジェーン」
私は水槽を眺めながらヒラヒラと手を振って挨拶をした。
「
水槽の中には大きめの巻貝が鎮座している。
「旧日本人は休日の終わりにサザエを見るらしいわ」
データベースにあったものを解析していくと、昭和の時代からあった伝統的なものらしい。
「サザエなんて見て何が楽しいのかしら」
ジェーンは疑問を――個人的感想を述べた。
「私だってわからないわ。旧日本人じゃ無いもの」
私の容姿は旧日本人の
旧日本人は絶滅し、誰もその文化や習慣を知らない。
今はデータベースにある資料を翻訳して再現していくほか無い。
「旧日本人は花や葉を見たり、月を見る行事があったらしいわ。だからサザエも見ていたのよ」
ジェーンは「ふうん」と興味無さそうに鼻を鳴らした。
「データベースによると、旧日本人は“サザエ症候群”と言って、サザエを見て涙したらしいわ」
「感受性高すぎない!?」
ジェーンは興味無さそうだったのに大きな声を荒げた。
「私もそう思うわ。サザエなんて大きなアクションをするものでは無いし、涙までは出ないもの」
何を思って旧日本人はサザエを見て涙したのだろうか。
私にはその気持ちがわからなかった。
「そういえば、旧日本では“サザエの壺焼き”って料理があるらしいわ」
「壺焼きってって事はタンドールよね。インドの遺物から出て来たって聞いたわ」
インドも多くの遺物が出てきている。
タンドールは調理器具――というより、壺型
「タンドールってチキンやフラットブレッドを焼くのよね」
材料が揃わないので作りようはないが、色々と作れる事がわかっている。
「旧日本ではインドやネパール系のカリー店が多かったらしいわ」
わかっている数でも2000店舗を超えている。
それほどまでに旧日本人はカリーを好んでいたようだ。
「なるほど。それならタンドールを使ってサザエを焼くのもわかるわ」
ジェーンはウンウンと頷き、納得した。
「食べ方で言うなら旧日本では“踊り食い”なんてものがあるらしいわ」
「ダンスしながら食べるの?」
私としては食べづらそうであるし、はしたない感じがする。
「けど、旧日本のスクールではダンスの授業が必修だったというし、旧日本人はダンスが好きだったのだと思うわ」
そうじゃなきゃ“踊り食い”なんて食べ方はしないもの。
「パーティーなんかじゃ楽しそうね。ダンスしながらなんて」
ジェーンは軽くリズムをとって小さく踊っている。
「けれどダンスしながら食べるのがタコだそうよ」
「それはクレイジーね」
ジェーンは踊りを止めて苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「タコは日本で多く食べられていて、焼いて食べたそうよ。大阪では名物“たこ焼き”って販売していたらしいわ」
タコを焼いただけでそんなに名物になるのかしら。と疑問に思うけれど、タコを踊りながら食べている民族だからと納得した。
データベースを色々と見ていると、ある言葉が目についた。
「なんだか、“たこ焼きパーティー”って言うものがあるらしいわ」
「じゃあ、みんなで踊り食いをするのね」
みんなで集まって焼いたタコを踊りながら食べている光景を浮かべたら、異様な光景でしかなかった。
「やっぱり旧日本人はクレイジーよ」
私には旧日本人の考えている事はわからなかった。
「そういえばタコは壺で獲るのよね」
ジェーンが思い出したかのように質問して来た。
「そうね。タコ壺っていう……嗚呼、それでタンドールを作っていたかもしれないわね」
旧日本人はタコを壺で獲り、サザエを獲り、週末にサザエを見て涙した後、タコの壺でサザエを焼いたのね。
「けど週末は焼いたタコでパーティーじゃなく、サザエを見て泣くのね」
なんとも不思議ね。
週末なら騒いでパーッと明るく過ごした方が良いじゃない。
「もしかしたら明るく過ごさないのが旧日本人らしいのかもしれないわよ」
「嗚呼、確か年末年始はパーティーっぽい事をしないらしいわね」
「あら、そうなのね」
「年末はテレビで赤と白を見るらしいわ」
赤と白?とジェーンは首をかしげた。
「年末に赤と白だから、サンタクロースだと思うのだけど」
「嗚呼、何だか世界中の子供たちに人気のサンタクロースね」
ジェーンも知っているという事は世界各国で知られている存在なのだろう。
「旧日本ではテレビでサンタクロースを見て年を越すのね」
「昭和から続いている伝統らしいわ」
「それなら悲しい感じじゃなくて安心したわ。年末まで泣いていたら悲しいもの」
「そうね。けどサンタクロースを見て涙してたかもしれないわよ」
ジェーンは難しい顔をしてから「それはきっと嬉し涙よ」と笑った。
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