第3話 エルフ

 私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。

 異文明の遺物解析をする者――、Anolystアナリストだ。


「先生!」

 初老の女性をドアから出迎えた。

 この女性はAnolystアナリストの先駆者であり、私達の先生でもある。

 名はルイーザ・フォン・コルツ。「いにしえ解きのルイーザ」と呼ばれている。

「久しぶりね。元気にしていたかしら」

「ええ。先生もお元気そうで何よりです」

 私の代わりに友人であるジェーン・リン・ケイシーが答えた。

 先生をリビングルームへ通し、私はお茶を入れた。

「ありがとう。最近はどう?」

 先生の問いに私は首を横に振った。

「オーカは旧日本の遺物解析だから……私はまだ順調な方ね」

 ジェーンは旧コンゴ共和国の解析で新たな発見をしたばかりだ。

「ジェーンはキャッサバの農作に成功したんですよ」

 旧コンゴ共和国で国民の基礎食糧となっていたキャッサバ。

 これを発見し、見事に育てあげる事に成功した。

「おめでとう、ミス・ケイシー。旧コンゴ共和国での遺物からは、サトウキビ、コーヒー、カカオなどを育てる事が成功出来ていたから順調ね」

 そう。これまで旧コンゴ共和国での遺物からは、サトウキビ、コーヒー、カカオが発見されている。

 国の大規模生産としてはされていなかったようだが、ちゃんと復元が出来ているので順調に解析が出来ていると言って良い。

 キャッサバは国民の基礎食糧となっていたため、これが進めば食糧難から回避出来るのではないかと期待されている。

 正直羨ましい。


「先生は最近どうですか?」

 同僚であり、友人に嫉妬するのもどうかと思って先生に話を振ってみた。

「まだ発表されてないけれど、旧ロシアでウォッカの製造方法が見つかったわ」

「ウォッカって極寒の地で飲めば瞬く間に身体が暖かくなるお酒ですよね」

 ウォッカの製造方法が発見されれば、旧ロシアでの活動がしやすくなるとも言われている。

「そんなものを発見出来るなんて!流石は先生ですね」

 流石は尊敬出来る恩師は違う。

「ありがとう。まだ再現出来ていないけど、もしかしたら近い未来ウォッカが食卓に出回るかもしれないわよ」

 そしたら寒い冬は耐えられそうな気がする。


「あとはエルフとドワーフの伝承も少しは解析が出来てね――」

 “古解きのルイーザ”と呼ばれる彼女は遺物解析もさながら、考古学者のような事もしている。

「エルフってアレですよね?旧日本人が考えた西洋人の図――ですよね」

 旧日本での遺物に“エルフ”があり、西洋人の姿をしていたのでとされた。

「それが、実は旧欧州にて考えられたものと解析されたの」

「「えぇ!?」」

 私とジェーンは驚愕を隠せなかった。

 エルフは旧日本での遺物に多く、欧州ではそんな遺物は発見されなかったからだ。

 常識であった事が覆されそうな一瞬である。驚くのも無理は無かった。

「考古学的なもので伝承でしかないけど、詳細はデータベースに送っておくわね」

 このような「もしかしたら」が解析の役に立つかもしれない。

 それが先生の考えだった。

「旧日本人は何を考えているかわからないからね。広い視野で考えるのよ。ミス・フラーには期待しているのよ」

 先生に激励を受け、胸の中で熱いものが広がった。



「ではまたね。ミス・フラー、ミス・ケイシー。貴女たちは優秀なんだから、あまり根詰めないようにね」

 先生は手を振ってこの家をあとにした。

「オーカは良かったの?」

 ジェーンはよくわからない質問をしてきた。

 私が首を傾げると質問の説明をした。

「いや、先生が協力してくれるなら旧日本の事もわかったんじゃないの?」

 そうか。そういう質問か。

「いや、私がやってみせるわ。先生に期待されちゃ頼りっぱなしは失礼だもの」

 ジェーンはやれやれといった形で首をすくめた。

「オーカは頑固ね。それも旧日本人の血かしら」

 ジェーンは私を茶化すようにしてカップに口をつけた。


「ねぇ。先生が言ってたエルフの内容だけど……」

 ジェーンはデータベースを見ながら私にも読むよう勧めて来た。

 何事かと思ってデータベースでエルフについて読んでいく。

「エルフは長寿でヴィーガン。他の人間とは関わり合いを持たず――」

「ジェーン……先生はエルフは旧欧州人から伝わったって言っていたわよね」

 思わず先程の確認をしてしまう。

 ジェーンは首を縦に振って肯定する。

「もしかして……エルフって旧日本人の事じゃないかしら」

 ポツリと口から仮説が出る。

「旧日本人は寿命が長かったという記録があるわ。それに穀物を主食として日本食という独自の食べ物を食べていたの。確か――」

 私はデータベースを漁った。

「これ!【草食男子・肉食女子】ってあるわ。旧日本人の男性はヴィーガンだったのよ。女性に肉を与える習慣があったかもしれないわ。それに――」

 名称が出ないのでデータベースで探していたらジェーンの方から答えが出た。

「鎖国だっけ?」

「そう!」

 ジェーンの言葉に大きく頷いた。

「他国と関わり合いを持たない時代があったって」

 これまでエルフは日本人が考えたものだと思っていた。

 旧日本の秋葉原あきばはら地下に淫靡なエルフの本が発見されたからだ。

 それが逆だった。

 エルフは旧欧州人が発祥で、対象が旧日本人だったかもしれない。

「そしたらAnolystアナリストというより、考古学的発見ね」

 先生と同じだわ。とジェーンは付け足した。


「へぇ。エルフの胸は小さく容姿端麗……」

「ジェーン。貴女、今私の胸を見たわよね」

 ジェーンは素早く私から目を逸らした。

「いや、オーカは容姿端麗だなって……ね。そう恐い顔をしないでよ」

「ジェーン。私をおだてれば良いと思っていないかしら」

 ジェーンが口を開く前に私はジェーンの胸を恨めしく揉みしだいた。

「このっ!このっ!どうせ私は貧乳よぉ~!!」

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