第1話 三種の神器

 私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。

 異文明の遺物解析をする者――、Anolystアナリストだ。


「いやぁ~、キッツいわぁ~。何なのよ旧日本って国は!!」

 私は怒鳴るように独り言を口から放った。

「そんなんなら、貴女も旧コンゴ共和国か旧インドの遺物解析を専攻すれば良いのに」

 隣にいるジェーン・リン・ケイシーが私の独り言に反応した。

「確かに旧コンゴ共和国か旧インド王国は解析が進んで楽しいでしょうけど――」

「けど、オーカは日本人の血が混じってるからルーツが気になるのよね」

 ジェーンは私の言葉を紡いだ。


 私は日本人の血が混じっている。

 黒い髪に黒い瞳、黄色めの肌。顔立ちは色々と混じっているからわからないけど、それは日本人を表すものだった。

「先祖返りとでも言うんでしょうかねぇ」

 ジェーンは私の容姿を見てひとりごちた。

 私の先祖はアメリカにいて地下シェルターに潜って生存した。

 そこで何代かと世代を経て、純粋な日本人は消滅。

 旧日本の遺物である写真から、私の容姿が日本人に酷似している事がわかった。

 何代かと世代を経ていたので、日本人の使っていた日本語も滅んだ。

「聞いてよ、ジェーン!日本人が使っていた日本語が意味不明なのよ!」

 私は日本の遺物解析を行っているので日本語を勉強している。

 勉強しているというより、解読していると言った方が正しい。

「日本語は基本3種の文字を使うの。ひらがな、カタカナ、漢字よ。頭がおかしいと思わない?」

 他に変な記号を使う事もわかっているが、基本だけでも3種だ。

「あー、そりゃ凄いわ。3種の文字を使うのって頭がごちゃごちゃしなかったのかな?」

「知らないわ。私は解読するのにごちゃごちゃしているもの」

 旧インドは場所によって言語が違う事は納得がいく。

 それに生き残りというべきインドの人種は残り、ヒンディー語が使える人間がいる。

 なので解析は進み、外科医的遺物解析やIT遺物が役に立っている。

 それに釣られてか旧ドイツ語も解析が進んでいた。

「何で小さな極東国なのに3種もの文字を使うのかが意味不明だわ」

 そんな日本語を解読し、遺物解析をするには随分と時間がかかっていた。


「確か、旧中国から漢字が来たって話よね」

「そうね」

 旧中国は遺物が殆ど発見されなかった。

 中国語を話す事が出来る人もいるが、遺物が無いので言語として残っている。

 中国人は混血だが、旧アメリカに多くの人がいたので残っている。

 最初は私が旧中国人寄りかと思っていたが、何か違うようだと思った。

 旧アメリカ人と旧欧州人の違いのような“何か違う”というものでしか無かった。

 しかし旧日本人の写真を見て納得したのだ。

「中国語の漢字がわかっても日本語がわからないという最悪の結果よ」

 漢字の意味がなんとなくわかる。それ以外はわからない。

「誰かが言っていたわ。“旧日本人は未来に生きている”って」

 私はその意味が理解出来た。

 絶滅したとされる旧日本人なのに、未来に生きている。

 可笑しいけど納得してしまう。

「本当に頭が可笑しいわよ」


「それで、解析は進んで――いなさそうね」

 ジェーンは私が頭を抱えているのを見て首を横に振った。

「今は昭和と呼ばれる時代の解析をしているわ」

「確か、古すぎる時代は解析困難だったから昭和にしたのよね」

 私は肯定として頷いた。

「明治時代と呼ばれるとこからでも良かったけど、昭和からにしてみたの」

 明治時代はロシアからの遺物で戦争があったという事がわかった。

「戦争という言葉を耳にして明治じゃなく昭和にしたけど、昭和にも戦争があったのよね」

 私はため息をついてデータベースを見た。

 データベースには旧日本に派遣された探索者からの遺物が載っており、そこから解析が可能となっている。

 昭和から始めたと言っても順番に揃っているわけではない。

 虫食いのように――ジグソーパズルのように断片的な遺物から解析していくのだ。


「昭和に“三種の神器”と呼ばれるものがあるらしいわね」

 データベースからなんとか解読できた言葉を口にした。

「神器って神様が使っていたもの?」

 ジェーンが私の言葉に反応した。

「確か、神様から受け伝えた宝器の事よ」

 世界の災厄を神の怒りだとか言う人はいたけれど、神様が何をしたかったのかはわからない。

 世界を更地にして、人間を長い間地下へと潜らせたかったのだろうか。

 そして、神様がいるなら何でまた人間を地上に上がらせたのか。

 わからない。

「カラーテレビ、クーラー、自家用車が三種の神器らしいわ。3Cと呼んでいたって書いてあるわね」

「カラーテレビ、クーラー、自家用車が神様から受け伝えた宝器なの?」

 ジェーンは驚いている。

「随分と機械に詳しい神様だったのね」

 ジェーンはひとりごちた。

 確かに随分と機械に詳しい神様だ。

 旧人類は電気をよく使い、生活していたとされる。

 今見ているデータベースも電気によって可動しているが、遺物からの派生でしかない。

「データベースもテレビからの派生のようなものだし、カラーテレビが神様から受け伝えた宝器でもおかしくないんじゃない?」

「そっか。じゃあ私達は神様から受け伝えた宝器で仕事しているわけだ」

 そんな大層なものかと思ったが、旧人類が凄い文明を発展させていたのだからジェーンの言葉に反論が出来なかった。


「それにしても、神様は凄い太っ腹よね」

 データベースにある車の写真を見ているようだ。

「だって、テレビや車なんて普及率が凄いじゃない。旧人類は神に愛されていたのね」

 そんな神に愛された旧人類は何をして神から嫌われたのだろうか。

 嫌われでもしないと地下へ押し込められないだろう。

「日本の自動車は世界で愛されていたって言うし、愛知の自動車製造会社が神様に何かしたのかしらね」

 データベースにある自動車が分解されている写真を見る。

 辛うじて他の自動車のパーツを組み合わせれば動くようで、自動車の構造がわかってきている。

 近代――と言っても2500年代の自動車はコンピューター制御によるものが多いので、構造の簡単なアンティーク物の自動車が動きやすいとされる。

「旧コンゴ共和国にも日本の自動車が多いわ」

 データベースにある旧コンゴ共和国の自動車を見せて来た。

 ジェーンは旧コンゴ共和国のAnolystアナリストだから、たまに旧コンゴ共和国の情報を私にくれる。

 “違う区域のAnolystアナリストとも意見交換せよ”が方針である為というのが3分1、友達だからというのがもう一つ。もう3分の1は暇つぶしだろう。

「やっぱり、愛知の自動車製造会社が邪神崇拝でもしたのかしら」

 災厄の原因はわかっていない。

 その原因を含めた解析をするのも我々の使命でもある。

 私は解析が進まないというストレスを肺から掃き出した。

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