It's grass~それは草~

1240/一二四〇

プロローグ

 旧西暦2222年世界の文明は滅び始めた。

 最初はほんの些細な事だった。

 活火山が活動しなくなり、大雨が降るなどが続くだけだった。


 しかし、そこから綻び始めた。

 2525年。それは急速に流れた。

 日本では原子力発電所がメルトダウンし、放射性物質が解き放たれた。

 ユーラシア大陸で未知のウイルスが2種も同時発見され、ユーラシア大陸全土に感染が広がった。

 欧州ではトルコとスウェーデンの大規模地震により壊滅。

 北アメリカ大陸では豪雪とタイフーンによって全てが破壊された。

 南半球は火山噴火によって全てが飲まれてしまった。

 それが一つずつならどうにかなっただろう。

 しかし、ほぼ同時に起こった。

 日本のメルトダウンだけは原因不明とされたが、他より半年だけ早かった。

 だが、文明が滅びるのは同じだった。


 2600年人類は地上を歩く事は無くなった。

 各国の首脳や上流階級は地下シェルターへと潜った。

 セレブなどは民間スペースシャトルで宇宙へと飛んだが、宇宙でどうなったかはわからない。

 宇宙へ行っても資源や食料は限られている。

 どのみち生きていられる時間は限られている。

 冷凍睡眠コールドスリープなんてSFの技術を試みようとも生命を保存するための資源が無い。

 だから少しでも生き延びるために、地下シェルターで暮らす事となったのだ。


 3000年に旧アメリカ大統領が「文明は滅んだ」と発言した。

 それほどまでに深刻だったとされる。

 約200億人もいた世界人口は10億人を下回ったとされる。


 しかし、長く苦しい生活は3500年に兆しが見える事となった。

 地上に変化が起こった。

 あれ程までに荒れ狂い、生活など出来ない環境だった災厄がピタリと止んだのだ。

 人類は歓喜した。

 恋焦がれていた地上へと舞い戻る事が出来たのだ。


 そして3820年――。

 ――私は地上ここにいる。


「ではミス・フラー、世界の遺物保存地域を旧国名で答えなさい」

 文明が一度滅び、人類は地下へと潜った。

 しかし、地上で文明の遺産と呼ばれる物――遺物が発見された。

 電波塔、テレビ、電子レンジなど、様々な文明の遺物が発見される。

 だが、殆どの国では遺物すら残らず、更地となっていた。

 その中で多くの遺物が発見される地域を“遺物保存地域”と呼んでいる。

「はい。コンゴ共和国、インド、ロシア、そして日本です」

「良く出来ました。トルコとスウェーデンの大規模地震により欧州やその付近は壊滅。

 アフリカ大陸も自然災害や砂漠化が進み、コンゴ共和国が遺物保存地域となります。

 インドは津波などで壊れたものがありますが、比較的遺物が発見される地域ですね。

 ロシアは雪と氷による保存によって遺物保存地域に指定されています。

 日本は運良く――いえ、運悪く一気に人が住めなくなってしまったので遺物が多く残っています」


 先生は私の答えに補足説明をいれた。

「旧アメリカは何故遺物が発見されないのですか?」

 私達が今いるこの地域では遺物は発見されなかった。

 地下シェルターがあったので、そこで多くの人が住んでいた事は確かだ。

「この地域ではタイフーンによる被害が大きく、全てが消えたとされています。だからこそ復興しやすかったとも言えますね」

 そう。旧アメリカ――今私達がいる場所は復興がしやすかった。

 しかし、旧日本のように遺物がある場所は復興が進まない。

 それは遺物の解読・解析が必要であり、その作業が進まないからだ。

 遺物は旧人類の資産であり、遺産である。

 それを容易に破壊する事は許されないとしている。

 その異文明の遺物解析をする者をAnotherとAnalystを合わせたAnolystアナリストと呼ばれる。

 私達はアナリストとして、遺物の情報を解析してゆく。

 解析した事はデータベースに移し、保護する。

 解析し終わった場所から移住区域として整備等をしていく。


 遺物は私達のゼロ文明からしたら崇高なるアーティファクトなのだ。

 生活の苦が楽に、大きな文明の発展となる鍵だ。

 地上へ出て300年。解析は進んではいるが、絶滅してしまった民族などの解析は難しく芳しくない。

 旧アメリカ人、旧欧州人、旧ロシア人、旧オーストラリア人、旧インド人これらの民族は生き残っている。

 生き残っていると言っても、混血として純粋な血族はいない。

 しかし言語は解読が出来るため、インドでの遺物解析は比較的進んでいた。

 ロシアは凍結により入手は困難。

 コンゴ共和国は道のりは大変だが遺物の入手はしやすい。そのため解析は多少なりとも進んでいる。

 日本の遺物は遺物保存地域の中でも綺麗に残っている。動くものまであるのが驚きだ。

 しかし日本は日本人が絶滅している。そのため全く進展が無い。

 極東と呼ばれる日本へ行く探索者も少ないのも原因の一つだ。

 そんな中、私――オーカ・リン・フラーは日本の遺物解析を行っている。

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