003 平穏な暮らしは無理そうだった。
とりあえず店をあとにして、街道沿いを探すことにした。あてもないので、いつ終わる旅かもわからない。ひとまず自己紹介をしておく。
「あ、えーっと。あらためまして、タイキです。まぁ、ご存知の通り、新人冒険者です。」
「これはご丁寧に。ミレイです。大勇者さまから、この地を任せていただいた、最高位の魔法使いです。」
「…。」
「本当ですからね…。あの杖だって、大勇者さまからいただいたものなんです。一番大切なものなんですからっ!」
「そんな大事なものを…。」
「…言わないでください…。」
絶妙な力関係が構築されてしまった。それはさておき、聞いておかなければならないことがある。
「そんなに危ないことなら、はやく大勇者さま?に報告したほうが良いんじゃないの?」
俺の質問にミレイは真顔になり、「無理です」と答えた。
「なんで…?」
「こ、こんな
思いっきり目が泳いでいるが、これ以上は少しかわいそうなので、聞かないでおく。
―――多分、怖いんだな。怒られるの。
「…まあ、見つければ良いんだもんね。」
「そ、そうです。見つけてしまえば、私が怒られることを回避できます…あっ。」
聞かなかったことにしよう。
「ところで、その杖はそんなにすごいの?」
「もちろんですっ!あの杖は、世界最強の杖なのですっ!」
「攻撃力が強いとか?」
「…いえ、それは申し上げられません。」
急に話がしぼんでしまった。何か言えない事情があるのだろう。別の話題を探していると、ミレイが言葉をつないだ。
「そうそう、タイキさん。何も武器を持ってないんですよね。これ、あげます。」
突然のプレゼントに
「…えっ?良いの?…高そうだけど…。」
さっき俺を丸焼きにしようとした杖が、差し出されている。若干の恐怖を感じるが、何も武器を持っていないのでは、さすがに危なすぎる。ここはご厚意に甘えておこう。
「その杖、どんな魔法でも使えますから。」
「…えっ!?」
「ですから、どんな魔法でも使えますから。あ、もちろん魔力量の制限もありませんから。」
とんでもない杖を手に入れてしまった。あらゆる魔法をどれだけでも使える杖か。
―――チートじゃないか…。
「…ん?…この杖より、例の杖は強いの…?」
「はい、当たり前じゃないですか…。」
自分の感覚を疑ってしまう。あらゆる魔法を撃ちまくれる杖より「強い」とは。しかも当たり前に強いとは。
「それ、本当に取り返せるの?」
「ええ、楽勝です。…今のところは。」
最後の言葉が気になっていろいろと聞いてみたが、答えてはもらえなかった。最終的には丸焼きにされかけたので、この手の質問はもうしないと心に決めた。
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