第8話 城壁破壊

 プリークネスの森の遥か上空で待機する天使達。


 「ふん、やはり魔族は姿を現さないか・・・間抜けではないって訳か・・・」


 「ランニングさん、遊んでますね。」


 「これ以上は無駄な時間だな・・・プライム、ランニングを呼び戻せ。」


 「了解であります。・・・・・ランニングさん聴こえますか!もう、戻って来てください。聞いてますか?」


  ・・聞いてますよっと。後、5分くれっと。後、5分だからっと。・・


 「こんなこと言ってますけど、どうします?」


 「言っても聞かんか・・・後で厳罰だな・・・」


 「・・・ランニングさん後で厳罰ですって、早く戻って下さいね。・・・」


  天使は、もう暫くその場で待機するのであった。




 シフォン達魔導科班は、協調魔法の準備をしていた。


 「わたしを中心にユーワさんは、右前に。シチー君は、左前に。ダイナ君は、右後に。シルクさんは、左後。」


 「おうよ!で俺たちは、どの魔法を唱えればいい。」


 「では、ユーワさんは、風属性の攻撃魔法を。シチー君は、火属性の攻撃魔法。ダイナ君は、属性強化魔法を。シルクさんは、魔力強化魔法を唱えて下さい。」



 4人は、それぞれの担当魔法を唱え始める。シフォンは周りを見渡して、近くで倒れている武術科の生徒に声を掛けた。


 「そこのあなた、まだ動けますか?」


 「いや、無理だ・・・とても動けそうにない・・・・」


 「では、大きな声を出せますか?」


 「あぁ、大きな声なら何とか出せる・・・」


 「では、お願いします。今から『協調魔法』を使います。わたしが合図したら、前線で戦っている方々に避ける様に叫んで下さい。」


 「・・・わ、わかった。」



 シフォンはその事を確認すると、自分の作業に集中した。


 皆さんの魔法が集約するのを感じます。これなら、魔法を紡ぐのも問題なくやれそう・・でもこれだけでは、足りないだから・・・


 シフォンは、自分自身でも魔法の詠唱を始めた。


 「裁きの雷よ、我を阻むものに鉄槌を。」


 そのことに気づいた周りの4人、全員が思った。流石にそれには、無理があると。しかし協調魔法に入った時点で、もう止める事が出来なかった。ただ、見守る事しか。


  シチー君の魔力が足りてない、わたしの魔力で補填。後は、問題ない水準。


 「紡ぐ紡ぐ、暴風を。紡ぐ紡ぐ、業火を。紡ぐ紡ぐ、轟雷を。一つ一つを紡いで繋ぐ。一つになりて偉大なる魔導の力を呼び起こす。我、シフォン=クレアの名において発動させん。」


 シフォンは、左手を挙げ合図をおくった。それを見た武術科の生徒が必死に叫んだ。


 「よ け ろぉぉ!!!」


 その声を聞いた傭兵達は、即座に天使から離れた。


 「堅牢なる城壁をも打ち砕く光杭。  城壁破壊(キャッスルブレイク)。」


 地面に魔法陣が浮かび上がり魔法が発動し、巨大な光の杭が天使を捉えた。轟音と共に煙が巻き上がり、周囲の視界を遮った。そして、その場は静まり返った。


 「成功したの・・・」


 「あぁ、見事だ!」


 シフォンは、安堵し、気が抜けたのか、よろめき倒れそうになる。そこを仲間たちがすかさず支えに入った。


 「ごめんなさい。少し疲れただけだから・・・・」


 「無茶しすぎですよ、シフォンさん。」


 「流石に途中で、魔法の詠唱を始めた時には、焦ったぜ。」


 「デモ、ブジニ セイコウ シタノデスカラ・・・」


 皆が、安堵感に包まれる中、傭兵の一人が声を掛ける。


 「お前ら、とんでもねぇ魔法決めやがったな!これであの野郎もただではすまねぇ。後は、俺らに任せて休んどけ!」 と言った瞬間だった・・・

立ち込める煙のなかから、天使が飛び出し男を吹き飛ばした。


 「今のは、ビックリしたぞっと!人間にこんな強力な魔法を使える者がいるとは思わなかったぞっと。」


 天使の姿を見た魔導科班の全員が、膝をつき愕然とするのだった。



 「もうダメだ・・・魔力も体力も残っていない・・・・」



 誰もが絶望する中、シフォンは、周囲を見渡し、状況の把握に努めて打開策を模索する。


 ・・・まだ戦えそうなのは、傭兵さん3人。先生達、武術科の子たちは、すでに戦闘不能・・・私達は・・・わたしとシルクさんがまだ魔力が残っているけど・・・それ以前に皆、戦意を失ってる・・・・・・これって・・・


 シフォンは、思わずもらしてしまう一言。




 「・・・終わって・る・・・」




 シフォンは何とか気を張っていたのだが、冷静に分析してしまった為に、より一層の絶望感に襲われてしまったのだ。その時、不意に後ろから男の声が聴こえてきた。



 「いやいや・・・いきなり殴るなんて酷い事するなぁ。」



 そこには、一番最初に天使に殴られ森の奥に消えていった、みすぼらしい剣士が立っていたのだった。

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