第7話 舞い降りる天使

 プリークネスの森では、学院の生徒、教師それに休憩で立ち寄った商人の一団がたむろしていた。


 最初の班が魔獣討伐の卒業試験を終え、班の入れ替わりをしている最中、それは起こった。



 森は、生徒達の移動で少しざわついていたが、一瞬、静寂に包まれた。


 天から白銀の天使が舞い降りたのだ。そこに居た人々は、それに目を奪われた。


 人々は、思った。 綺麗と・・・とそれと同時に悪寒の様なものを感じたのだった。



 「何なの・・・あれは・・・」



 ほとんどの者が天使と言う存在を知らなかったため、思考を停止させ固まってしまっていた。その中で商人の一団の一人が顔を青ざめ、一言もらした。




 「天使だ・・・」




 その一言が皆を現実へと引き戻す。


 「天使だって?マジか・・・」


 「間違いない、あいつは、タビーから逃げてきた者だ・・・」


 その事実がその場に居た全員に行き渡ると、にわかにざわめき始めた。と、その時、一人の男が天使へと歩み寄って行った。



 「君、君、なんか知らないけど、邪魔をしてはいけませんよ。しっかし、なんて格好してるんだ。」


 そう言って近づいて行ったのは、みすぼらしい剣士だった。



 「バカ!迂闊に近づくんじゃない!!」 商人の雇っている傭兵が叫ぶ。


 次の瞬間、天使は、みすぼらしい剣士を軽く小突くと、剣士は、勢いよく吹っ飛ばされ、森の奥深くへと消えていった。


 「おいおいマジかよ、軽く触れただけだろ。」



 「頭・・・吹っ飛んでなかったか・・・今・・・」



 その光景を目の当たりした人々は、戦慄する。そして天使が・・・



 「人間の皆々様方、これから、殺戮ショーの始まりですよっと。簡単に死なない様に抵抗してくださいなっと。」



 すぐさま一人の教師が叫ぶ。


 「みんな逃げろ!!」


 生徒達は一斉に逃げ出した。


 「ひとっこ一人、逃がしはしませんよっと。」


  天使は、まるで瞬間移動したかの如く、生徒達の前に立ちはだかった。


 「う、嘘だろ・・・さっきまで、あっちにいただろ・・・」


 「全く見えなかった・・・こんなのどうしろって・・・・」


 「抵抗しないと死にますよっと。」


 天使は、軽く腕を振り上げると、近くに居た生徒、数名が吹き飛んだ。

 倒れこんだ生徒は身動き一つしなかった。


 「おや、手加減しているのですがっと。人間とは、ここまで脆弱とはっと。」


 逃げ惑っていた、生徒達だったが。


 「このまま殺されてたまるものか!」


 数名の生徒が臨戦態勢を取った。そこへ商人の傭兵達が割って入ろうとする。


 「お前たちは下がれ!ここは、俺たちが何とかする!」


 「あなた達は後ですよっと。まずは、お若い方々からですよっと。」


 天使は、舞い上がり、再び生徒達の前へと立ちふさがった。


「そうはさせん!!」 教師達が天使に立ち向かって行った。


 武術科の教師3人が連携して天使に攻撃を仕掛けたが、天使は片手で余裕で捌かれてしまう。しかし、それは陽動であった。


 「煉獄の炎よ!全てを焼き尽くせ!!」 魔導科の教師が炎の魔法を天使にめがけて放たれる。


 「これは、交わせないかなっと。」 天使は、魔法の直撃を受けて爆炎に包まれた。


 「やったか!?」 周囲はにわかに沸き立つが、次の瞬間、絶望に変わる。


 炎の中から天使が、ゆくっりと姿を現す。


 「魔法防御システムも問題ないじゃないかっと。転用物だから、上手く機能するか心配だったがイケるじゃないかっと。」


 「無傷・・だと・・・」 周囲が落胆する中、シフォン達魔導科班は、なにやら話しをしていた。



 「皆さん、わたし達も加勢しましょう。現状、逃げるのは、まず無理でしょう・・・だったらこの戦いに加わるしかないでしょう。」


 「しかし、シフォンさん、私達の魔法では、あいつには、通用しないですよ。」


 「・・・手数で押す、魔法で天使を釘付けにして、前線の戦士の直接打撃で倒してもらう・・・これが今の所の最善策。」 近接戦闘ができる人達が健在なうちは、これでいい。もう一つ策はあるけれどもそれは・・・


 「そうだな、このまま手をこまねいてもしょうがねぇ!やるしかねぇな!!みんな俺に続け!」


 「ダイナクンガ、ナンデ シキッテルノサ!」


 生徒達は、それぞれの得意とする魔法で天使への攻撃を試みる。


 「我が炎よ、業火となりて敵を打ち滅ぼせ!」


 「カゼヨ スベテヲナギタオス ボウフウヘト」


 「撃ち抜け光の矢!」


 「全てを凍てつくせ氷の刃!」


 商人の傭兵達は、かなり熟練の戦士らしく、生徒達の行動にすぐさま呼応した。


 天使が魔法の対応している一瞬の隙をついて、戦士の一人が強烈な一撃を入れる。


 「これは完璧に決まった!」



 「んん!今、何かしましたかっと?」 天使は、平然としていた。



 「貫け、裁きの雷よ。」 シフォンは間髪入れず魔法を放つ。


 「続けるのよ!続ける事で活路を見出せる!」 ・・・はず


 「何度、やっても無駄だと思いますがっと。抗い続けるのは、悪くないですよっと。」


 天使との攻防が続く中、また一人、また一人と脱落して行く人間達。


 「先生達がもう戦える状態じゃない。武術科の子もほとんど動ける者がいないよ。」


 「傭兵達もボロボロだ・・・もう・・駄目だ・・・」


 その中、シフォンは、重い口を開いた。


 「正直、この手は使いたくなかった・・・皆さん、提案が有ります・・・」


 「シフォンさん、何か手があるのですか?」




 「『協調魔法』を使いましょう。」




 「・・・・・・・・」 一同、一瞬の沈黙の後、ユーワが切り出す。


 「『協調魔法』を使うのは構いません・・・でも、『紡ぎ手』が居ませんわ。『紡ぎ手』は熟練魔導士にしか出来ません、現に先生にも出来なかったし、授業だって宮廷魔導士の特別講師を呼んでやったじゃないですか!」


 「そんな事はわかっています。だから、『紡ぎ手』はわたしが務めます。」


 「ダメです!!危険すぎます!もし、失敗すれば『紡ぎ手』にその反動が来るんですよ!」


 「ありがとう、ユーワさん心配してくれて。でも、わたし達が今できる事は、これしかないんです。大丈夫、わたしを信じて・・・」


 「でも・・・・」 そうしているとユーワの肩をポンポンとシチーが叩いた。


 「信じようぜ、我等が首席シフォン=クレアを。」


 「ソウダヨ、ユーワサン、シフォンサンナラ、デキマスヨ!」


 「要は、やるしかないってこった。」


 「みんな・・・それでも私は反対。・・・・でもシフォンさんがやるというのなら・・・私は私は・・・」 シフォンは、ユーワを抱きしめながら。


 「皆さんありがとう。時間もありません、早速、準備に係りましょう。」


 シフォン達魔導班は、協調魔法の準備をするのであった。

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