第5話 神族

 アリスティディス王国から北東に位置するタビー共和国。


 今、この国は、神族の庇護と言う名の神族の占領地域である。



 4年前のことだった、たった一人の天使が舞い降りた。


 その天使は、瞬く間にこの国の武力を奪い、国の中枢機関を破壊し、国としての機能を失わせた。


 そして、大挙して天使達が舞い降り、貴族等の権力者の排除を行い、神族による支配体制が引かれた。



 最初のうちは、悪政に苦しんでいた国民達に歓迎されていたのだが、次第に本性をあらわにしていった。彼らは、支配が目的ではなく、ただ単に地上での拠点が欲しかっただけで、この国に住む者達のことなど一切考えておらず、従わない者達を徹底的に排除していった。


 その結果、裕福な人々は、国を去り、残ったのは、年寄りと貧民層だった。この国の荒廃が加速したのであった。 




 かつて国府として使われてた、タビー宮殿は、今や、天使達の駐屯施設と化していた。そこには、白い出で立ちで、白髪、白肌で中性的な容姿をした者達が出入りしていた。彼らこそが神族だった。


 その施設の一画で複数の神族達が話しをしていた。


 「ほぉ、これが天使の装甲(エンジェルアーマー)に替わる新型、天使の衣(エンジェルコート)ですか。」


 「新型ではなく、試作段階のシロモノでして、まだ実戦に投入できるレベルには、ないんですが、何故か、テストの許可が降りたので、今回の偵察任務で使用する事に・・・」


 「ふーん、しかし、急すぎないか?」


 「それなんですよ!急だから、準備が整わないですよ、技術班総動員ですよ。後、1時間はかかりそうなんで、そのマニュアルよく読んどいて下さい。」


 「技術班も寝耳に水ってところか・・・」


 「ステイジー隊長!でも凄いじゃないですか、新型のテストを任されるなんて、私たちの部隊、期待されているんじゃないですか。」


 「・・・逆だぞプライム、試作段階の物だと言っていたんだ、どんな不具合があるか、わかったもんじゃないぞ。」


 「それって、貧乏くじ引かされたって事ですか?」


 「まぁ、そうゆうこった。」


 そこに一人の神族がやってきた。


 「遅れましたっと・・・あれ、まだ準備出来てないじゃないですかっと、隊長。」


 「遅いぞ、ランニング。と言っても出発はもう少し先だ。」


 「ランニングさん時間厳守して下さい。連帯責任なんですから!私の評価も下がってしまうんですから!」


 「評価、評価うるさいなっと。」


 「出世を諦めてるランニングさんには、どうでもいい事でしょうが、私にとっては、死活問題なんです!」


 「はいはい、これだから、女性寄りの奴はっと。」


 「今、女性寄りとか関係ないでしょ!」


 「おい!お前らその辺にしとけよ。今回の任務の確認すっぞ。」


 「へーいっと、でも例の魔族の反応があった場所の偵察でしょっと、確認する必要、特になくねっと。」


 「その場所が問題あるから確認するんでしょ、あんたみたいな馬鹿が居るから。」


 「あんだとっと!!」


 「いちいち突っかかるな、二人とも・・・話しが進まん・・・・これから偵察に行くドラゴニア周辺だが、強力な結界が張られている。もし、結界内に踏み込もうものなら、エンジェルアーマーでも助からんぞ。多くの同胞があの結界の餌食になっているからな。」


 「そんなの分かってますよっと。」


 「お前が一番心配なんだよ!」


 そうこうしてると、技術班の神族が戻ってきた。


 「いや~お待たせしました。これから、エンジェルコートの仕様説明を行いたいと思いますが宜しいですか?」


 「あぁ、やってくれ。」



 「簡単に説明してしまうと、天使の装甲(エンジェルアーマー)をより小型化したのが、天使の衣(エンジェルコート)です。

 従来のエンジェルアーマーは、小さい物でも全身5m超えていましたが、エンジェルコートは、新技術、新素材の開発の成功で、3mまで圧縮に成功したものです、行く行くは、神族サイズにまで圧縮できればと思ってます。

 エンジェルコートは、機動力が格段に向上しています。かと言って装甲強度が疎かになっている訳ではありません。

 新素材の導入で硬度は、エンジェルアーマー以上になっています。

 しかしながら、魔法防御システムの開発が間に合いませんで、そのかわり、エンジェルアーマーの魔法防御システムを転用してます。」



 「転用?それって、大丈夫なのか?」


 「理論上、問題ないはずです。」


 「理論上ね・・・」


 「・・・偵察任務ですし、まだ、武装も施していないので・・・魔族と遭遇したら、全力で逃げて下さい。まぁ、人間相手なら武装無しでも殲滅可能でしょうけど・・・」


 「武装無しかよっと。つまんねえっと。」


 「おいおい!武装無しは頂けないな、魔族との遭遇戦だって考えられるだぞ、何とかしろ!」


 「・・・・・それがでして・・・天使の衣(エンジェルコート)用の武器の開発が遅れてまして・・・武装が積めないのですよ。」


 「それこそ、エンジェルアーマーのヤツを転用すれば良いのでは?」


 「小型化した弊害で規格が合わないんですよ、無理に積むとバランスに大きな問題が、生じますので・・・」


 「・・・・戦闘しなければ問題ないってか・・・で、こいつには、名前が付いているのか?」


 「仮名ですが付いてますよ。『試製アズライール』と名付けられています。」


 「アズライールか・・・こうしていてもしょうがない・・・そろそろ・・・」


 「隊長、大丈夫でしょうか?」


 「まぁ、任務だ、やるしかない。」


 「そうそうっと、とっとと偵察に行きましょうっと。」


 「くれぐれも、無理をなさらぬ様に・・・壊さないで下さいね。」


 「努力する・・・行くぞお前ら。」


 「へ~いっと。」 「了解であります。」



 3人は天使の衣(エンジェルコート)を装着すると、タビー宮殿を飛立ったのであった。

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